約 1,869,129 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4339.html
前ページ次ページイザベラ管理人 イザベラ管理人第21話:炎の色は・後編 メンヌヴィルは、おそらく20年ぶりに背筋が凍るような恐怖を味わっていた。 「クソ…なんだ、なんなんだこれは…ごぁぁ!」 今のはまずい、わき腹を抉られた。 既に右肩を深く抉られ、左腿を貫かれてかなり血を失ってしまっている。この上さらに出血するのは危険すぎる。 「ぐぉぉぉぉぉ!」 炎を生み出し、わき腹の傷を無理やり焼灼することで止血する。 また、”奴”が剣を振った。 メンヌヴィルは凄まじい激痛で意識を朦朧とさせながらも、後ろに倒れこむように体勢を低くすることで見えない攻撃を回避する。 そう、彼には見えていなかった。 だが、今、彼は攻撃を受けていた。 あの、平民だとばかり思っていた剣士。奴が剣をメンヌヴィルに向けて振るたびに、深い傷が刻まれる。 剣を振ると攻撃が飛んでくる…この事実に気づく前に致命傷を受けなかったのはまさに奇跡だ。 ありえない。こんなことはメンヌヴィルの20年に及ぶ殺し合いの経験の中にも一度もなかった。 彼はコルベールに顔を焼かれてから、温度の視界を手に入れた。 この世の全ては温度を持っており、それは空気も然りだ。 故に、彼は盲目などではなかった。何故なら、温度の視界には空気の細やかな温度変化さえも映るからだ。 如何なる攻撃も空気を変化させずに行うことは不可能だ。 炎を操れば周囲の温度が上がるし、氷を作ればその逆。風を操れば不自然に空気の温度が均一化されるし、土のゴーレムが現れれば温度分布が変化する。 加えて、彼の視界は光に左右されない。昼間だろうと、真なる闇だろうと、彼の視界を遮るものは何もない。 それは戦闘という行為において、凄まじいアドバンテージだ。 人間は基本的に視覚への依存度が高い。視覚を奪ってやればどれほどの歴戦の勇士でも戦闘能力は激減するのだ。 彼こそは闇の主。闇こそは彼の領土。 先ほどまで煌々と月光が降り注いでいた広場は、今は無粋な分厚い雲の仕業によって闇に沈んでいる。 光が漏れる食堂から離れたとはいえ、真なる闇というほどではない。そもそも、雲程度で月光が完全に遮断されることなどない。 だが、人間の視覚が効果的に機能するためには、一定以上の光が必要なのだ。 今の状況は、その一定に明らかに達していない。 すなわち、ここは彼の領土なのだ。 にも関わらず…。 奴の背中側に回り込み、メンヌヴィルは杖から巨大な炎を生み出して撃ち出そうとした。 だが、奴が”正確に”こちらを向いて不可視の謎の攻撃を放つ。 その攻撃は彼の炎に直撃して互いに威力を失ったが、至近で炎が飛び散ったせいで、彼は自身が生み出した炎によって体を炙られることとなった。 「クソ…クソォ…!」 何故だ、何故あの男はこちらの居場所がわかるのか。 常人よりも目がいいのかと思い、食堂から引き離したというのに、それでもあの男の攻撃の精度が下がることはない。 こちらが奴の死角に常に回り込んで魔法を撃っているというのに、必ず奴はそれに気づいて反撃してくる。 しかもその攻撃は、彼の視界に映らないのだ。 剣を振ったことはわかる。空気が攪拌されるからだ。だが、その後に飛来してくるはずの”何か”がまるで認識できない。 空気を全く変化させずに放つ攻撃など…見たことも聞いたこともない。 加えて、威力も速度も相当なものだ。威力はトライアングル並み、速度は《エア・ハンマー》より若干劣る程度といったところか。 さらに始末が悪く、また、信じられないことだが…”詠唱していない”。 人間が口を開いて言葉を喋れば、口元の温度が呼吸以上に上昇するはずなのだ。それさえもない。 つまり、あの男は…無詠唱で威力、速度を兼ね備えた遠隔攻撃を剣を振るという行為だけで連射していることになる。 なんなのだ…いったい、自分はどんな悪魔と戦っているのだ! 今だけは彼は光の視界がないことを悔やんでいた。 自分が戦っている悪魔の姿がわからないことがこれほどの恐怖を与えるとは…! 闇の王は、自身が今まで敵に与え続けていた恐怖の味を、初めて己で味わっていた。 アニエスは焦燥を抱えながらも、人質を解放するために木陰で機を窺っていた。 最初の突入が失敗した時点で、彼女は続いて突入するはずだった銃士達に再び待機するように命じていた。 奇襲は失敗した時点で殲滅される危険性が高い。 故に選択した二段構えの突入が保険として機能した。 相手も手練だったのだろう、何らかの方法で最初の突入が察知されたらしく、あの学生メイジ2名も含めて6名の被害を出していた。 残りの銃士はアニエス自身も含めて6人。相手は、あの隊長らしき白髪のメイジも含めて10人ほどか。 その内、コルベールに杖を焼かれた者が一人、奇襲の際の目潰しをまともに浴びた者が何人か…敵の戦力低下はこれだけだ。 目潰しから回復していない間に攻撃を仕掛けるべきなのだが、目潰しを浴びなかった敵は確実に次の攻撃に備えて魔法を用意しているだろう。 そんな中にあって、想定外のことではあったが、風竜に乗って現れた謎の男が隊長のメイジと戦っていることは僥倖と言えるだろう。 未だに倒されていないところを見ると、謎の男はもうしばらくは隊長メイジを釘付けにしてくれそうだ。 だが…こちらはたった6人の銃士で残りの食堂に潜むメイジ全てを倒さねばならない。 加えて、敵の敵は味方として謎の男を扱ってもいいものかは疑問が残るところだ。 正直なところ、分が悪すぎた。奇襲前の戦力のままならばまだやりようもあったが…今更言っても詮無い事である。 さらに今は夜。しかも分厚い雲が双月を隠している。銃の精度が極端に落ちてしまう。 本来ならばマスケット銃の射程は100メイルほどあるが、この手触りすら感じられそうな闇の中からの狙撃では命中させるのは厳しいだろう。 そんな風に銃士隊の長として思考しながら…彼女が焦燥を感じているのは、全く別の要素であった。 本音を言うならば、彼女としては貴族のガキどもなど何人死のうがどうでもいいのだ。 彼女は20年前のダングルテールの事件以来、貴族というものへの尊敬と畏怖など完全に失っている。 皆殺しにしたいとまでは思わないが…貴族というもの全てに対して酷い嫌悪感を抱いているのだ。 そんな彼女がどうしてこんなにも焦っているのか…それは、徴兵にも応えなかったあの腰抜けの昼行灯だと思っていた男、コルベールだ。 まさか…まさか、あんな腰抜けが捜し求めたダングルテールを焼き払った悪魔だったとは! いや、おそらくは仮面をかぶっていただけだったのだろう。だとしたら、相当な役者であると認めねばならない。 そう…あの男は、ダングルテール唯一の生き残りである彼女が断罪せねばならないのだ。 決して、決して彼女以外の者に殺されてはならない! だのに、あの男は死にかけている。いや、もしかしたらもう死んでいるかもしれない。 白髪のメイジが放った炎に、謎の男の魔法が横から激突し、コルベールの至近距離で炸裂したのだ。今もコルベールのローブには火が燻っている。 一刻も早く駆けつけてとりあえず火を消し、自らの罪を自覚させてから殺してやりたい。 けれど、今出れば確実に食堂に潜むメイジに狙い撃ちにされる。 魔法の誘導性はマスケット銃などとは比べ物にならない。まったく、平民とメイジの差は度し難い。 アニエスは心中で、貴族に魔法を与えたという始祖へありったけの罵詈雑言を叩きつける以外に出来ることがなかった。 ケティ・ド・ラ・ロッタは下級貴族の次女だ。 下級貴族と言っても、質のいいワイン用の葡萄の栽培などで財を成しており、そこそこに裕福な家である。 そんなロッタ家の次女である彼女がこの学院に在籍している理由は、有力な上級貴族の子弟と縁を作るためと断言しても良い。 彼女としても、恋に恋する年頃であるので、そのことに不満はない。 政略結婚で見も知らぬ男と結婚させられることもなく、こうして学院で相手を選ぶことが出来るのだ、むしろ望むところである。 まぁ最初の相手として選んだギーシュ・ド・グラモンとは破局を迎えたのであるが…その程度でへこたれる彼女ではない。恋する乙女は強いのである。 だが、強いとは言っても、それはあくまで立ち直りの早さという意味だ。決して物理的なものではない。 なにせ彼女の二つ名は燠火であるのだからして、戦闘に耐えうるほどの能力ではないことは誰が聞いても明らかであろう。 さらに火というのは応用範囲が極端に狭く、日常に使える魔法はない。せいぜいが料理する時に便利、掃除した後の始末に便利…程度であるが、貴族である彼女がそんなことをする必要はない。 すなわち、彼女にとっては、魔法の才能に乏しく日常に使える魔法もないとなれば、魔法を学ぶ価値が薄いというものである。 故に、彼女は既に割り切っており、学院では恋を追っているのだ。 だというのに…今、自分を襲っているこの状況はいったいどういうことなのか。 常に生徒教師合わせて数百人規模のメイジが在籍する、ある意味このハルケギニアにおいて最も安全であるはずの学院が、謎の男達に奇襲されて自分たちは人質にとられている。 男達が皆徴兵されてしまったところを突いたのだろうが…か弱い婦女子を人質にとるとは、レコン・キスタには羞恥心というものがないのか! だが、いくら嘆いてもこの状況が変わることはないのである。 恐ろしくて泣いていたら、白髪のメイジに脅されるし、下を向いていたとはいえ光の炸裂のせいで目が痛いし…ケティはまた泣きたくなってきた。 だが、泣くわけにはいかない。白髪のメイジは、光が炸裂した後に外に出て行ったきり戻ってきていないが、他にも10人ほどの男達がまだここには残っているのだ。 けれど、意に反して涙腺は緩み、涙が溢れてくる。 だって、女の子だもん。 ケティは嗚咽を漏らし始めた。ケティの涙が伝染したのか、周囲の少女達も泣き出していく。 「おい、お前ら静かにしやがれ!」 先ほどの光の炸裂のせいか、目を覆っていたメイジが苛立たしげに声を荒げる。 だが、この極限状況では、もはやその怒声は逆効果にしかならなかった。 涙は次々伝播し、大声を上げて泣き出す者もいる。 「て、てめぇら…1分以内に静かにしろ、じゃねぇと全員ぶっ殺すぞ!」 戦場で生きる無法者達にとって、女の甲高い泣き声というのは、神経を鑢で逆撫でされるようなものである。 予想外の反撃にあい、さらに少女達の泣き声を浴びせられて、男達のイライラは極限に達していた。 そうだ、ここには90人もの人質がいるのである。たかだか数人殺したところで全く問題はない。 彼はやっと回復してきた目を血走らせ、どこに魔法を撃ちこんでやろうかと少女達を見回した。 その視界の隅に、何かが走っていた。 彼は瞬時に歴戦の兵としての自覚を取り戻し、そちらへ杖を向け…その正体を知った。 「あ…ネズミ…?なんだよ…」 そう、ネズミだ。小さなハツカネズミが、彼の足元にやってきたのである。 ネズミは彼を見上げ、チューチューとひとしきり鳴いた。 ネズミ…モートソグニルはこう言っているのだった。 「ふ…お前達、命が惜しければすぐに投降しな。さもないと、我が主の輝かしい戦歴を飾る数多の勲章の一つになってしまうぞ?」 そうして、モートソグニルはニヒルな笑い声をあげた。 だが哀しいかな、モートソグニルの言葉を理解できるのは、この場にはその主しかいないのである。 モートソグニルは、使い魔達の中でも屈指のハードボイルドな人生…いやさ、鼠生を送ってきた。 モートソグニルの姿を見れば、荒くれ者の猫といえども道を譲ったものだ。 そんな歴戦の勇士であるモートソグニルにとって、間抜けなオスどもの目を盗んでオスマンに予備の杖を届けることなど造作もないことである。 数々の罠…毒餌やネズミ捕りを突破し、獲物である食料を掻っ攫ったあの時に比べれば、圧倒的にスリルが足りない。 「通じるわけもなし、か。まぁ仕方あるまい。お前達は、俺の子ネズミちゃん達を泣かせた罪を償うがいい」 モートソグニルは『英雄色を好む』という格言の通り数多の子ネズミちゃんを鳴かせて来た色男…いやさ、色ネズミであるが、種族自体が違うのだし、モートソグニルの美意識にとって人間のメスは守備範囲外であった。 だが、オスマンに召喚されたせいか、はたまたオスマンに毎日のように女生徒や女教師達の下着や着替えを覗かされ続けた影響か、いつしか人間のメスも守備範囲に入るようになったのだ。 そんなモートソグニルにとって、この学院はパラダイスと言えた。 そして、モートソグニルのパラダイスを土足で踏み荒らし、あまつさえ彼しか泣かせることを許されない子ネズミちゃん達を泣かせたこの男達にくれてやる憐憫など、最初の投降を呼びかける言葉だけで充分である。 モートソグニルは最後に、他の男達にも嘲笑を浴びせると、食堂の外へと走り出て行った。 男は、何故だか妙に気に障る鳴き声を上げるネズミが走り去っていくのを見送った。 まったく、人間様を驚かせるとは、人騒がせなネズミである。 「ほっほっほ、ほれ君達、もう大丈夫じゃよ。泣かんでもよろしい」 突然あがったその声は、如何なる力を持っていたのか…少女達の泣き声をピタリととめてしまった。 声の主は…杖を奪われ、手を縛られて何の力もないはずのただの老人、オールド・オスマンであった。 食堂中の誰もが彼に注目した。 彼は常のごとく好々爺然とした笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。 そしてこれまたゆっくりとした動作で、縛られていたはずの両手を広げた。 「これからワシが、君達にステキなものを見せてやるからのう」 彼はその手に持った木の枝を楽団の指揮者のように上げ… 「なんだ、枝……?杖!?」 その手を振り下ろした。 少女達を囲んでいた4人のメイジの足元の床が一気に盛り上がり、それは人の形を取った。 慌てて他の男達が待機させておいた魔法をオスマンに放つ。 炎や氷柱、風の刃に土の散弾がオスマンを完膚なきまでに破壊すべく飛来する。 ケティは呆然としたまま、学院長がボロ雑巾のようになるのを見届けるしかなく…そして、そんなことにはならなかった。 そう、彼こそは偉大なるオールド・オスマン。 数百年生きたとさえ言われる、強大なる古きメイジ。 杖さえあれば、彼を打倒しうるメイジなどこの世に数人程度しかいない。 突如として、凄まじい突風が足元から巻き起こった。 食堂の床から空気が一気に吹き上げたのだ。 その風は、なんとも器用なことに生徒と女教師だけを避けて、敵の魔法と敵メイジだけを天井にまでその風圧で吹き飛ばした。 「ぶはぁ!」 顔面から天井という床に落下した男達の体は、続いて重力の存在を思い出して一気に落下し、再び床に叩きつけられた。 ありえない威力の風の魔法だ。 食堂に散らばった男達と、オスマンへ向けて放たれた全ての魔法を等しく天井へ吹き飛ばすほどの風をこれほどの広範囲にわたって生み出すなど、スクウェアメイジの中でも可能とする者は稀だろう。 しかも、人質達だけを避けるとは恐ろしいほどに精巧な操作。 加えて、あの異常な詠唱速度。 ゴーレムを生み出した直後にこれほどの魔法を編み上げるとは…偉大なるオールド・オスマンの名は伊達ではない。 「ほっほっほ、眼福眼福、良いものを見せてもらったわい」 全員が呆然と上を見上げている最中、突風を巻き起こしたオスマン本人は床…正確に言うなら、女生徒や女教師達の足元を見つめていた。 あまりの異常事態に誰も気づいていなかったが、全員のスカートがもろにまくれていたのである。 つまりは90人のパンツ見放題というわけだ。このためだけに風の魔法を選択したと言っても過言ではない。オスマンは自分の若さと精神力が回復していくのを感じた。 次に、オスマンは4体のゴーレムを同時に操り、捕えたメイジの杖を奪って絞め技をかけさせて意識を落とす。 そのゴーレムは、信じがたいほどに精緻な美青年の姿をしていた。 「あ…あぁ…うあぁぁぁ!」 強大な力を見せ付けられた敵メイジ達は、隊長であるメンヌヴィルがいないことも手伝って一気に戦意を喪失し、食堂から逃げ出し始めた。 ケティは目の前で恐ろしいメイジを拘束したゴーレムの姿に魅入られていた。 「ステキ…」 そのゴーレムは、彼女の心を一時射止めたギーシュよりもさらに美しい美青年であった。しかも、ただのゴーレムのはずなのに、何故だか気品さえ感じるような気もする。 「そのゴーレム、イカスじゃろ?」 いつの間にかケティの隣にいたオスマンがニヤニヤしながら話しかけてきた。 「はい、とってもステキです…」 ケティは心の底からの尊敬の眼差しを偉大なるメイジに向けた。 美少女からの無垢な尊敬の視線を受けて、オスマンはさらに若返った気がする。 そして、食堂内の女性達全員に聞こえるようにこう言うのだった。 「このゴーレムの姿な、ワシの若い頃なんじゃよ!ほっほっほ、ええんじゃよ?ワシに惚れてもええんじゃよ?」 ケティは後に述懐した。 「やっぱり…高いところから落ちると、その分、より下に落ちちゃいますね…」 偉大なるオールド・オスマンは、一気に最高潮まで高まった威厳を、たった数秒で地の底にまで貶めたのだった。 「な…なんだ…?」 アニエスが焦燥と怒りに歯噛みしていた時、異変が起こった。 食堂から、敵メイジ数人がまろび出てきたのだ。 食堂からの逆光でわかりづらいが、全員が統制を失っているようだ。 ここ以外ないと断言できる千載一遇の好機! 「イリア、ミースは援護しろ!他は私について突撃、奴らを殲滅し、食堂内に突っ込むぞ!」 食堂内で何が起こったかはわからぬが、敵が浮き足立っていることは間違いない。 素早く命令を下し、木陰から走り出る。 食堂からはさらに一人のメイジが現れていた。 他の敵メイジとは違って幾分か小柄で、背も若干曲がっている…あれは間違いなく。 「学院長…だと!?」 その手には木の枝のような杖が握られている。 「ほっほっほ…まずは生徒達に色々と乱暴をしてくれた礼をせねばのう」 好々爺然とした笑い声をあげながらも…その小さな体からは、この場にいる全ての者を圧する強者の迫力が吹き付けている。 偉大なるオールド・オスマンが杖を一振りする。 それだけで… 「うわぁぁぁ!」 逃げ出そうとしていた二人のメイジの足元が盛り上がり、5メイルはありそうなゴーレムが現れた。 驚くべきはその造形と発生箇所。 アニエスにはどういう意味があるのかはわからないが、そのゴーレムはすらりとした体躯をローブに包んだ美青年の姿をしていた。 色が土の茶で5メイルもの巨体でなければ、人にしか見えないほどの精緻さ。 加えて、逃げ出そうとしていた二人のメイジは、オスマンからは10メイルほども離れていた。 その足元を狙ってゴーレムを作り出すなど、いったいどれほどの技量が必要だというのか。 「ほーれ、まだまだ終わらんぞい」 さらにオスマンが杖を振る。 ゴーレムは、両手に持ち上げた二人のメイジを別方向に逃げようとしていた二人のメイジに思い切り投げつける。 「ぎゃああ!」 同時に、オスマンの周囲に風が吹き上がり、空しい反撃を試みていた敵メイジの炎球を巻き上げて吹き消した。 その風はついでにコルベールのローブで燻っていた炎も蹴散らす。 ついで、オスマンの頭上で集結した風によって巻き上げられた微細な塵が、魔法によって操作を受けて冷やされた水蒸気と結びついて雲へと姿を変え、さらに《錬金》によって帯電状態となる。 「若造どもにはまだまだ負けられんからのう」 周囲が一瞬だけ昼間のように明るくなった。 まだ離れた位置にいたアニエスは、光に目を焼かれずにそれを見ることが出来た。 雷雲から幾条もの雷が伸び、オスマンに炎球を放ったメイジや、別方向に逃げようとしていた一人、さらには仲間をぶつけられて団子になっていた4人のメイジに直撃、一瞬にしてその意識を刈り取っていった。 黒焦げになっていないところを見ると、手加減がされているのだろう。さすがに生徒達の前で殺しは出来ぬということか。 だが、それを差し引いても、あれほどに精緻なゴーレムを操作しながらの《ライトニング・クラウド》とは思えぬ射程と精度だ。 「まだ敵は2名いる、逃がすな!」 銃士隊も手をこまねいているわけにはいかない。 まだ逃げ出そうとしている敵メイジの進行方向に射撃を加えて足留めする。 いったい食堂内でオスマンが何をしたのかはわからないが、すっかり戦意をくじかれていたらしいメイジは反撃しようともせずに尻餅をついた。 その間にその手の杖を斬り飛ばし、2名の捕縛も完了させる。 食堂内からは、全く同じ姿に床材の色の2メイルほどの美青年ゴーレム4体が残りの4名の敵メイジを肩に担いで現れた。 「後は隊長格のメイジだけかの…ん、こりゃいかんな」 敵メイジを全て捕縛したことを確認していたオスマンが、コルベールの傷に気づいて皺深い顔にさらに皺を寄せる。 食堂内からは十数人の水属性を操る生徒達が現れ、コルベールや負傷した銃士への治療に当たる。 アニエスは手短に部下達に敵メイジの拘束と負傷者の応急措置、白髪のメイジの捜索を命じ、コルベールへと走り寄った。 「おい、この男は生きているのか!」 アニエスの怒鳴り声に、反応する者はいなかった。 コルベールには6人もの生徒がついて治癒魔法を施しているが…一向に目を覚ます気配がない。 ややあって、コルベールを治療している見事な金髪を巻き毛にした少女が口を開いた。 「なんとか…息はあるけど…火傷が酷すぎて……あぁ…」 言葉の途中で、その生徒は精神力を使い果たしたらしく、力を失った体が崩れ落ちる。 少女の体が地面に倒れこむ直前、その体を下から支える手があった。 「急いで医務室から秘薬をありったけ持ってくるんじゃ!はよぅせんかい!」 オスマンが声高に生徒達に指示を飛ばす声が聞こえるが…その声は、アニエスには意味ある言葉として認識されなかった。 「貴様…!」 コルベールが目を覚ましていたのだ。 苦しげに顔を歪め、内臓を傷めたのか、吐血もしているが…確かに目を覚ましていた。 「ゴホッゴホッ…せ、生徒…達は…」 「安心せい、皆無事じゃ。ミスタ・コルベール、君が護ったんじゃ」 「そう…ですか…良かった……」 コルベールに治癒をかけていた生徒達が次々と精神力を使い果たして倒れこむ。 オスマンも杖をコルベールに向け、治癒をかけるが…如何せん、火傷が内臓にも達しているらしく、秘薬なしでは延命程度が関の山だ。 今は絶え間なく治癒をかけ続けて延命し、秘薬の到着を待つしかない。 だが…そんな都合は、アニエスには関係のない話だ。 彼女は抜刀し、その切っ先をコルベールへと向けた。 「貴様が…魔法研究所実験小隊の隊長か?私は…ダングルテールの生き残りだ」 コルベールは言葉の意味を朦朧とした意識の中でゆっくりと咀嚼し…やがて驚愕に目を見開いた。 「何故我が故郷を滅ぼした?答えろ」 コルベールに無理に喋らせようとするアニエスに生徒達が抗議の視線を向ける。 だが、魔法によって精神力を消耗した彼女達の視線など、アニエスにとっては路傍の石ほどにも注意を引かない。 コルベールは復讐の炎を燃え滾らせるアニエスの瞳をしばらく見つめ…話し出した。 「命令だった…。疫病が発生し、焼かねば被害が広がると告げられ…仕方なく焼いた…」 「バカな!疫病などなかった!」 「そうだ…あれは”新教徒狩り”だった…。私は…メンヌヴィルの言う通り、村人を全員焼き殺した。仕方がなかったのだと自分に言い聞かせた…。 けれど…何の罪もなかった彼らを焼いた”手触り”が毎日私を苛んだ。だから、私は軍をやめ…二度と炎を破壊のためには使わぬと誓った…」 コルベールは虚空を見つめ、今にも途切れそうな意識を必死に繋ぎとめた。 これは、彼の罪だ。彼女は過去からやってきた断罪者だ。 ならば、コルベールは彼女が知りたいと望むことを全て教え…そして、その手の剣で断罪されねばならない。 それまで、決してこの意識は手放してはならない。 「それで…貴様の罪が償えると思うのか?」 コルベールは総身の力を振り絞って、弱々しく首を横に振った。 そう、償えるはずがない。彼は100人以上の村人を全て焼き殺した。何の罪もない彼らを。 一時は死のうとも思った。だが、死とは本当に償いか?違う、それは逃げているだけだ。 彼を断罪していいのは、彼女だけだ。コルベールの命は、コルベールのものではない。 故に彼は、自分の残りの生を人を幸せにするための技術開発に注ごうと決め…過去からの断罪者がやってきたら、その時はこの命を差し出そうと思っていた。 今がその時なのだ。 アニエスが剣を振り上げるのが見える。 彼は穏やかな気持ちで目を瞑った。 死んだと思っていたが、生徒達の無事を確認し、ダングルテールの生き残りである彼女に知りたいことを教えてやることも出来た。 そんな時間を与えてくれた始祖に、彼は心の底から感謝していた。 一瞬だけ、罪人である自分がこんな穏やかな気持ちで断罪を受けていいのだろうかとも思ったが…すぐにそんなことはどうでもよくなる。 今まで無理やり繋ぎとめていた意識を、彼はゆっくりと手放した。 アニエスは、目を瞑ったコルベールに向けて剣を振り下ろそうとした。 だが、それを遮る影があった。 「お願い、やめて」 燃えるような赤い髪の少女だった。 「どけ!私はこの一瞬のためだけに20年生きてきたのだ!貴様などに何がわかる!」 アニエスは少女ごとコルベールを貫くために、剣を逆手に持ち替えた。 コルベールに治癒をかけていた最後の女生徒が、精神力を使い果たして意識を失った。 「お願い…彼はもう”炎蛇”じゃないわ。私達を文字通り命を賭けて救ってくれた”先生”なの…お願い…」 少女の涙と悲しみを湛えた瞳に見つめられ、アニエスの手に力が篭り、柄がギシリと軋む。 アニエスは、20年間復讐のためだけに生きてきた。 彼女の家族を皆殺しにし、彼女の平和だった世界を焼き滅ぼした者が、安穏と生きながらえていると思うと、腸が煮えくり返るどころか燃え上がりそうだった。 その炎だけを糧に、ただの少女だった彼女は剣を取り、彼女の世界を破壊した者を見つけ出すために女だてらに騎士となった。 そして、その努力が実り、彼女は今まさにこの手を振り下ろすだけで、憎き仇をこの手で殺すことが出来るのだ。 この男を殺すために鍛えられた彼女の力は、少女ごとコルベールを刺し貫くだろう。 だが…彼女は剣を振り下ろせない。 コルベールは騙されていただけの端末に過ぎないが…それを知っても、彼女の怒りになんらの衰えもない。 ならばどうしてこの手を振り下ろせない? それは…… 『お願い、お母さんをいじめないで!』 脳裏に、幼いアニエスの悲鳴がこだまする。 そう、彼女も…こんな風に、殺人者に哀願した。 ならば…今、この男を殺そうとする自分は…あの虐殺者達と同じなのではないか…? 数瞬の葛藤…そして、次に動いたのは赤髪の少女だった。 ハッとした様子で、コルベールの手をとり、手首に触れる。 突然の行動にアニエスは呆然としたまま、何のアクションもとることができなかった。 だから…少女の言葉に、身構えることも出来なかった。 「……死んだわ……」 その言葉は、まるで至近距離から大砲を叩き込まれたように、アニエスの心を打ちのめし、爆砕した。 論理的なことは何も考えられなかった。今自分が抱く感情の名前さえもわからなかった。 様々なものが入り混じり、混沌とした感情に突き上げられ…彼女は剣を改めて振り上げた。 「うあぁぁぁぁぁぁぁ!」 その剣はまっすぐに降り落ち…コルベールの顔のすぐ横に突き立った。 「く…うぅ…うぁぁぁ…」 アニエスは意味のなさないうめき声を上げながら力なく後ずさり…踵を返して、夢遊病者のような足取りで去っていった。 後には赤髪の少女…キュルケと、オスマンだけが残された。 「ふぅ…魔法を使わずに済んだようじゃのう…」 オスマンは治癒をかけながら待機させていた《スリーピング・クラウド》を解除した。 卓越したメイジである彼にとって、二つの魔法を同時に扱う術などは100年以上も前に習得済みの技術である。 キュルケはコルベールの手を取り、目を瞑ってジッと…おそらく、彼女の人生で初めて、始祖に祈りを捧げた。 だから気づかなかった。 暗闇からずっとタバサが彼らを見つめていたことに。 そして、タバサが水蒸気の炸裂によってふらつく体を引きずりながら、離れていったことに。 「コー…スケ…」 彼女の口から漏れた吐息のような言葉は、タバサ自身にさえも聞こえなかった。 食堂から離れた広場は、ねっとりとした闇に支配されていた。 分厚い雲が未だ双月を隠しているせいだ。 そんな粘るような闇の中を、耕介は体を襲う脱力感と緊張に必死に耐えながら泳いでいた。 「耕介様、来ます!」 御架月が敵の魔法行使を察知して声を上げる。 一瞬だけ、御架月が耕介の体の支配権を奪い、感知した方向へ体を向ける。 すぐさま体の制御を耕介が取り戻し、もう何発目になるのかわからない洸牙を放つ。 「がぁ!」 一瞬だけ炎が炸裂して暗闇を蹴散らし、同時に苦悶の声が聞こえる。 だが、耕介も満身創痍であった。 敵…メンヌヴィルは耕介を悪魔と評したが、それは正しくはない。 耕介も、今の状況は辛いものであった。 この暗闇の中では、身体能力的には鍛えた一般人程度である彼にはメンヌヴィルの姿は全く見えていないのだ。 ならば、どうやって攻撃に反応しているかというと…御架月の索敵能力を利用しているのだ。 御架月は、どこで魔力が消費されたかがわかる。故に、メンヌヴィルが魔法を行使した時にその場所を察知し、一瞬だけ耕介の体の制御を奪って、攻撃方向を示しているのだ。 これは逆に言えば、メンヌヴィルが攻撃してこなければ、耕介は何も出来ないということだ。 だが、これ以外に手段がない。 結果、消耗戦となる。洸牙を撃ち続け、しかも一瞬とはいえ、幾度となく御架月に体の支配権を奪われて、霊力が加速度的に消耗される。 せめて、雲が晴れてくれればもう少し視界が明瞭になるのだが…。 「耕介様、大丈夫ですか…?あ、またです!」 「大丈夫だ、御架月、雲が晴れるまで頑張ろう!」 タバサと戦った時以上に霊力を消耗し、意識を保つのが厳しくなってきた。 だが、耕介の事情などお構いなしに敵は攻撃を仕掛けてくる。 果ての見えない消耗戦は、耕介に魂を削っているような錯覚を与えていた。 アニエスが立ち去った後、タバサは耕介を探すために広場へ向かい、そこで死闘を繰り広げる耕介を見つけた。正確に言うなら、耕介と御架月の声を聞いた。 だが、今の彼女ではこの戦いに介入することは出来なかった。 普段ならば、彼女は空気の流れを読み取って、耕介と敵の位置を瞬時に察知できただろう。 しかし、今の彼女は満身創痍であった。 二度にわたる爆発による衝撃を受け、彼女の小さな体は未だにその機能を取り戻していない。 加えて、後頭部を打った影響が未だに抜けず、空気の微細な流れを読み取るような細やかな作業が出来ない。 今のタバサが出て行ったところで、温度の視界を持つメンヌヴィルに人質にでもとられるのがオチだ。 そう判断したタバサは、賭けに出ることにした。 すぐさま、その場から離れてシルフィードを呼び出し、上昇を命じたのだ。 「きゅい、お姉さま、上昇ってどこまで…えぇ!?雲までぇ!?」 渋るシルフィードに無理やり乗り、さらに上昇を命じると、シルフィードは不承不承に飛び上がってくれた。 「ほんとにお姉さまは竜使いが荒いのね…今夜は月も出てなくてシルフィは哀しいのね…」 シルフィードの愚痴を聞きながら、タバサはルーンをゆっくりと詠唱する。 これは一発勝負だ、決してしくじってはならない。 頭が痛み、集中が乱れそうになるが、なんとか抑え込んで詠唱を継続する。 シルフィードはどんどん上昇し、双月を未だに隠す雲が視界いっぱいに広がっていく。 「うぅ…寒いのね…風で遮断するにも限度ってものがあるのね…」 やがて、シルフィードは雲の真下にまで到達した。 もはや学院は豆粒のようにしか見えない高さだ。 タバサは詠唱していた魔法に全精神力を注ぎ込み続けた。 この一発で全てが空っぽになるだろう。 だが、それでも到達するかはわからない。 けれど、到達できなければ…耕介が死ぬ。 そう思うと、心の底から力が生まれてくる。 護りたいという思いが、彼女に力を与える。 (もう…父様を失った時と同じ悲しみを味わうのはイヤ…) 少女の心の叫びが、彼女の護るための魔法に更なる力を与える。 彼女は、今だけは全てを忘れた。復讐を忘れた。母を忘れた。イザベラを忘れた。シルフィードを忘れた。耕介を忘れた。自分自身さえも忘れた。 ただただ、己の全てを燃料に変え、胸に灯る炎に注ぎ込んでいく。 今、確かに彼女はスクウェアクラスの中でもさらに頂点付近へと達していた。 そして、彼女は今注ぎ込みうる自らの全てを込めて…その魔法を解き放った。 「お願い…!」 それは強力に圧縮された《エア・ハンマー》。 シルフィードを覆えるほどの大きさでありながら、その威力はスクウェアメイジが放つ通常の《エア・ハンマー》を軽くしのぐ威力を秘めている。 この《エア・ハンマー》ならば、攻城兵器としてさえ通用するだろう。 主の意を受けて飛翔した巨大な風は、一気に雲を蹴散らしながら上へ上へと昇っていく。 雲を撃ちぬき、ひたすらに月を目指して、少女の祈りを乗せた風は吹き上がっていく。 メンヌヴィルは幾度も繰り返された攻防で、敵の行動パターンを掴み始めていた。 てっきり、敵はメンヌヴィルを空気の流れで察知しているのだと思っていた。 だが、それにしてはおかしい。敵はメンヌヴィルが魔法を使った時は反撃するが、向こうから攻撃してこないのだ。 となると、こちらの炎を目印にしているのかとも思ったが、敵の背後で炎を作り上げても、敵は反応してくる。 それらを考え合わせると…全く理由はわからないが、敵はなんらかの手段で、メンヌヴィルの魔法発動のみを察知しているのかもしれない。 これならば、向こうから攻撃してこないことにも説明がつく。 問題はその理由が全くわからないことだが…今はそんなことを悠長に検証している暇はない。 それに、今は敵も謎の攻撃を放つ度に消耗しているのが温度変化から見て取れる。 遠からずあの敵が力尽きるのは火を見るより明らかだ。 だが、今も彼の体からは出血が続き、体力を奪い続けている。 一刻も早くこの敵を殺し、逃げおおせなくては。 彼はこの作戦が失敗していることをとうに理解していた。 彼の温度の視界に映っていた銃士達が食堂の方へと消えていったのだ。奴らが一度奇襲に失敗しながらももう一度突入をかけたということは、食堂内で何かがあったと判断すべきだ。 加えて、もしも銃士達を撃退したのならば、メンヌヴィルに加勢が来るはずだが、それもない。もう確定だろう。作戦は失敗したのだ。 だが、メンヌヴィルはこの敵がいる限り逃げることも出来ない。 敵は魔法の発動を感知するのだ、《フライ》など唱えようものならば狙い撃ちにされる。 ならば走って逃げるかとも考えたが、仲間達が倒されたのならば、食堂内の学院関係者達も解放されたはずだ。 そして、その中には…”あの”偉大なるオールド・オスマンがいる。 果たして、悠長に走って逃げるメンヌヴィルを見逃してくれるだろうか? だが、ここで果ての見えない消耗戦を続けて敵が力尽きるのを待つのか、その時間を遁走に当てた方が得策か…? メンヌヴィルは大量の出血と精神力の消耗で判断力が鈍っていることを自覚した。 結果、彼は消耗戦を続けることを選択した。 魔法を小出しにし、敵に攻撃を使わせることに専念する。 そして、敵にもう二撃使わせたところで…敵ががっくりと膝を突いた。 どうやらメンヌヴィルの予想以上に敵は消耗していたらしい。 「ついに終わりだ…!」 彼はその場で、すぐさまルーンを詠唱し、魔法を練り上げていった。 数十秒の後…巨大な《エア・ハンマー》はついに少女の願いを達成した。 円形に雲をくりぬき、向こう側にある月が姿を現したのだ。 双月が再び、雲間から下界を照らし始める。 幸いにも雲が既に晴れかけていたおかげもある。 だが、そんなことを考える余裕は少女にはなく…全てを使い果たした彼女は、シルフィードの背から落下した。 「きゅい!?お姉さま!?」 空から落下しながら、タバサは3年前からやめていた始祖に祈るという行為を再び行っていた。 (どうか…コースケが…無事でいますように……) 耕介は、もはや体が自分の命令では動かなくなっていることを理解した。 さっきから必死に立ち上がろうとしているが、足はガタガタと瘧にかかったように震えるばかりで、一向に体が持ち上がらない。 いつも軽々と振っている霊剣・御架月はズッシリと重くなり、1mmさえも動かすことが出来ない。 「こ、耕介様!」 御架月の悲鳴も遠く聞こえる。 その時…不意に周囲がわずかに明るくなった。 よもやこれが天からの迎えって奴か…?などとバカなことを考えた耕介は、次の瞬間にこの事実の意味を理解し、総身の力を振り絞って叫んだ。 「御架月ぃ!」 御架月はすぐさま耕介の意図を理解した。 今まで双月を隠していた無粋な雲が突如として晴れ、再びその恩恵を与えられた広場に、自身の血によって白髪を赤く染めたメイジがいる。 彼は耕介の前方5メイルほどの位置に立ち、ルーンを口ずさんでいた。 耕介から御架月へと宗旨替えした耕介の体は、今までの消耗が嘘のように、弾丸のごとき速度でメイジへと肉薄した。 驚愕に染まるメイジの顔を、耕介は無理やり体を動かされる激痛に耐えながら見つめた。 メイジの杖の先に掌ほどの大きさの炎が生まれる。 だが、一瞬だけ耕介の体の方が、メイジを一足刀の間合いに捉える方が早かった。 そこから、力強い踏み込みと共に、袈裟懸けに霊剣・御架月を叩き込む。 世界最高の切れ味を誇る日本刀は、理想的な踏み込みと力を与えられ、杖ごとメイジを一刀両断に斬り捨てた。 「がぁ…あぁぁぁああああ…!」 メイジは、魂切るような断末魔の叫びを上げ…崩れ落ちた。 耕介は、一瞬たりともメイジの顔から目を放さなかった。 放してはならなかった。 そう…この男は、”初めて”耕介が殺した男なのだから…。 体は、再び耕介の支配下に戻り…だが、その体には自身を支える力さえも残っておらず、仰向けに倒れこんだ。 「耕介様、耕介様ぁ!」 御架月が剣から現れ、情けない声で必死に呼びかけてくる。 だが、耕介にはもはや呼びかけに応える力さえも残っていなかった。 朦朧とした視界の中で…遥かな空の彼方から、青い光が降りてくるのが見えた。 「あぁ……綺麗……だな…」 呼吸の音にさえまぎれそうな小さな声は、そばで叫ぶ御架月にさえも届かずに儚く消え去り…耕介はその意識を手放した。 前ページ次ページイザベラ管理人
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1485.html
アニエスとリゾットは無言で城の廊下を歩いていく。二人がすれ違った貴族たちが何か小声で囁いていた。「平民」という単語が聞こえてきたため、リゾットは最初、自分について言われているのかと思ったが、よく聞くとやがてアニエスのことを言っているらしいと解った。アニエス本人は陰口などないかのように平然と歩いていく。 その陰口によると、アニエスは平民でありながら、アンリエッタの特別の引き立てで城内を出入りできるらしい。 (なるほど……。それで俺に対して敵意を抱いているわけか) おそらくは主人の意思を汲み取っているのだろう。アンリエッタが直接、リゾットへの敵意を示したことがなくとも、その感情というものは臣下に伝わるものだ。 アニエスに案内された場所は中央に大きなテーブルのあるだけの、窓もない石造りの部屋だった。 中央にテーブルが設置されており、その上に布をかぶせられた、岩のような形の何かが乗っていた。 「これを見ろ」 アニエスが布を取り去る。下から肌色をした球状の塊が現れた。 リゾットは一瞬、それが何なのか、理解できなかった。だが、よく見ると、その塊には随所に手のような痕跡や顔の成れの果てがついている。 「これは……」 リゾットは目の前にあるこの塊が何か理解した。そこにあったのは……人間の身体だった。正確には『人間の身体だったもの』だった。 ギャング、そして暗殺チームのリーダーという職業柄、リゾットは様々な凄惨な死体に立ち会ってきた。 だが、一度溶かされてまた固められた人間の死体は未だかつて出会ったことがない。 リゾットは表情にこそそれを出さなかったが、驚いてそこに立ち尽くした。 その間、アニエスは氷のような冷たい眼差しでリゾットの反応を観察する。 「こんな死体を作る魔法は存在しない。お前は奇妙な力を使うそうだな?」 「奇妙な力? 何のことだ?」 白を切ったが、アニエスの声に含まれる響きは、今の質問が確定した事実の確認に過ぎない事を伝えてきた。 「『レキシントン』号の捕虜から証言は得ている。とぼけても無駄だ」 確かに『レキシントン』号でのワルドとの戦いでスタンド能力を全開にしていた。 あの場に居た連中から漏れたとしても不思議ではない。 「……なるほど。では聞くが、俺が犯人だと疑っているのか?」 「いや、犯行があったと推定される時間の、お前の行動は確認できている。主人について授業に出ていたそうだな」 「………」 「お前のように、杖も持たずに魔法のような現象を起こす人間……『スタンド使い』の噂は聞いている。そのスタンド使いのお前に聞きたい。これは『スタンド』を使った犯行だと思うか?」 アニエスは探るような眼光をリゾットに向けてくる。リゾットもアニエスの表情から内心を読みにかかる。 (警戒しているな……) 要するに、アンリエッタもアニエスも未知の存在、『スタンド使い』であるリゾットを持て余しているのだろう。 おそらく、トリステインが確保しているスタンド使いはいない。上手く従うようなら、味方につけたいと思っているに違いない。 だが、リゾットは今のところ、トリステインの敵になるつもりも、トリステインに従うつもりもなかった。 「勘違いしているようだが、スタンド使いは一人一人、全く違う能力を持っている。自分がスタンド使いだからといって、相手のスタンド能力がわかるわけじゃない」 説明しながら、リゾットは新手のスタンド使いについて少しでも情報を得るために死体を注意深く観察を始める。死体は『固定化』をかけてあるのか、腐敗はなかった。 「この死体は死後、何日くらい経っている?」 「四日だ」 「見つかったのはこの一人だけか?」 「他に五人が犠牲になっている。一度に二人殺されたケースもある」 「一日に二人から一人か……。相当凶暴だな……。被害者の繋がりは?」 「発見場所が近いということ以外は特に出てきていない」 場所は首都トリスタニアでも最も治安が悪い辺りらしい。 アニエスの話を聞きながら、メタリカを出して内部に潜行させる。中は骨も内臓も区別がなく、均質な塊になっていた。表面に露出している部分は溶け残ったところらしい。 「外からじゃなく、中に酸のようなものを注射したのか。……ん?」 外に突き出た骨の部分に歯型があった。 「ネズミ……か?」 昔、被害にあったネズミの痕跡と、その歯型は似ていた。 「どうした?」 アニエスがリゾットの手元を覗き込んだ。リゾットは歯型を指差す。アニエスは不快そうに顔をしかめた。 「ネズミだな。人肉を漁りに来たのか」 「スタンドを使えるのは人間だけではない。動物のスタンド使いもいる」 アニエスが顔を上げた。 「このネズミがスタンド使いだと?」 「他の遺体にネズミの歯型があって、それらが一致すれば可能性は高いな」 パッショーネではスタンド使いの情報を熱心に集めており、その中に動物のスタンド使いの事例が報告されていた。 本来なら幹部以外は閲覧できない情報だったが、組織へ反旗を翻した時、ボスの手がかりになるかもしれないと、ホルマジオが奪ってきたのだ。 「分かった。調べてみよう。協力、感謝する。出来ればスタンド使いとして捜査に協力を願いたいが……」 「いや……、やめておこう」 「そうか。分かった」 リゾットをあまり刺激したくないのか、あっさりアニエスが引き下がる。 「そろそろルイズが戻る頃だろう。俺は行かせてもらう」 アニエスの返事も待たず、リゾットは部屋から出て行った。 「何してたのよ!」 ルイズは待たされたのか、ご機嫌斜めだった。 合流した後、ルイズは、リゾットにアンリエッタとの謁見の結果を話した。 ルイズ自身は自分が認められたのが嬉しいのか、楽しそうだったが、それと対象的に、話が進むにつれてリゾットの顔は曇っていく。 「というわけで、これから姫様のために働くから。あんたも協力するのよ」 全てを聞き終えた後、リゾットは息をついた。 「な、何よ……? 嫌なの?」 「いや……。ただ馬鹿な真似をしたな、と思っただけだ」 その途端、蹴りが飛んできたが、リゾットは一歩下がってそれをかわす。 「ばばばば、馬鹿って何よ!? 口の利き方に気をつけなさいよ! それに、陛下のために貴族が杖を振るうのは当然でしょ!」 ルイズはリゾットを見上げ、睨みつけた。 「確かに、貴族が王のために仕えるのは当然だ。だが、それは王がその働きで領地を保証してくれるからじゃないのか?」 「どういう意味よ?」 「公表しないのは俺も賛成だ……。知られればそれを利用しようとする人間を呼び寄せるだろうからな。だが、秘密裏に力を振るうということは、どんなに活躍しても、公的な場では決して報われず、認められない、ということだ」 リゾットが率いた暗殺チームもその任務上、機密性の高い任務ばかり扱っていたため、その仕事が表立って評価されることはなかった。もちろん、ルイズと暗殺チームは全く同じではないが、秘密の多さという点では共通している。 「そんなこと、ないわよ。姫様は忠誠には報いる、と仰って下さっているわ。現に女王付の女官にしてくださったじゃない。とても名誉なことなのよ」 「それは単にお前が任務を遂行するために必要な処置だろう。今回の件の報酬というわけじゃない」 「そうかもしれないけど……」 ルイズは俯いていたが、決心したように顔を上げた。 「ねえ、聞いて、リゾット。私、今までいっつも『ゼロ』って呼ばれて馬鹿にされてた。あんたを呼んで、少しは魔法ができるようになったかなって期待もしてたけど、相変わらずダメで、でも、最近、少しは失敗の魔法にも価値があるかなと思えたの」 ルイズは訥々と語る。 「だけど、この魔法は失敗じゃなかった。確かに、『虚無』は秘密にしなきゃいけないのは分かるわ。でも、この魔法に何か意味があるなら、私はそれを役立てたい。ずっと使わないで、『ゼロ』のままでいるなんて、嫌なの。そしてそれが姫様と、祖国のために役に立つなら、私はそのために力を使いたい」 リゾットはじっとそれを聞いていたが、ぽつりと呟いた。 「アンリエッタ女王を信じているんだな……」 「当然じゃない!」 ルイズは少女らしい純真さで、誇らしげに答えた。その表情に疑念はない。 「分かった。だが……、一つだけ約束してくれ」 「何よ?」 「もしも、倫理的な面から受けたくないような仕事……つまり、汚れ仕事を頼まれたら、例えアンリエッタからの命令でも断ると」 ルイズには誰かに認められたいという欲求が常にある。それが変な方向に働くと、ルイズは際限なく無理をするだろう。それがリゾットには心配だった。 だが、リゾットの心配をよそに、ルイズは拗ねたような顔をする。 「何よ……。さっきから忠告とか注意ばっかりで……。ご主人様と一緒に喜ぼうっていう心がけはないわけ?」 「喜べるようなことなら喜ぶさ……」 「よく言うわ。いっつも無表情のくせに」 ルイズはリゾットの頬に手を伸ばすと、ぐにぐにと引っ張る。それでも表情を変えないリゾットに、ルイズはため息をついた。手を離す。 「姫様なら大丈夫よ。あんたの心配してるようなことは起こらないわ」 「女王だって人間だ。間違えることもある……。信頼と妄信の違いを、お前は解っているのか?」 ルイズはイラついてきた。この使い魔はどうしてこう、水をさすことばかりいうのだろう。心配しているのは解るが、もう少し別の方向で気を使って欲しいものだ、と自分を棚に上げて思う。 一方、リゾットは困っていた。ルイズのアンリエッタへの信頼は絶大だ。それが悪いわけではないが、アンリエッタを絶対視しすぎる。自分の経験を元に話すことも考えたが、組織と国を同じ扱いをしてもルイズの機嫌を損ねるだけだろう。 「もういいわ。せっかくの気分が台無し……。帰るわよ!」 背を向け、ルイズは歩き去る。リゾットは少し離れてついていった。 (まあ、確かに、アンリエッタはルイズに目をかけている様子だし、今はそれほど心配することはない、か。いざとなったら、自分が何とかしなくてはな) リゾットは以前の自分ならば考えられないほど、ルイズに肩入れしていることを自覚していない。リゾットの左手で、ルーンが幽かに光っていた。 武器を返してもらい、宮中を出る。デルフリンガーが早速話しかけてきた。 「よう、相棒。やっと帰ってきたな。俺ぁ待ちくたびれたぜ」 そして前をスタスタと歩くルイズに気付く。 「また何かやったのか?」 「大したことじゃない。見解の不一致だ」 「ふ~ん……。ダメだぜ、仲良くしなきゃ」 王宮前のブルドンネ街は戦勝祝いのためか、人でごった返していた。酔っ払いの一団が、ワインやエールを片手に掲げ、口々に乾杯と叫んでは空にしている。ルイズはその中をつかつかと人を掻き分け、歩いていく。人ごみの中を歩くのに慣れていないのか、そこかしこで人にぶつかり、悪態をつかれる。 「いてぇな! 人にぶつかって謝りもしねえのかよ」 一人の傭兵崩れらしき大男がルイズの腕を掴んだ。相当酔っているのか、顔は真っ赤で、片手に酒瓶をぶら下げている。 傍らにいた傭兵仲間らしき男が、ルイズの羽織ったマントに気付き、「貴族じゃねえか」と呟いた。 しかし、ルイズの腕を握った男は動じない。酒も入っているのに加え、大勢の仲間がいるので気が大きくなっていた。 「今日はタルブの戦勝祝いのお祭りさ。無礼講だ。貴族も兵隊も町人もねえ。 ぶつかったわびに、俺に一杯注いでくれ」 そういってワインの瓶を突き出す。 「離しなさい、無礼者!」 ルイズは虫の居所が悪いこともあり、男の神経を逆なでするようなことを叫んだ。男の顔が凶悪に歪む。 「なんでぇ、俺には注げねえってか。誰がタルブでアルビオン軍をやっつけたと思ってるんでぇ! 『聖女』でもてめえら貴族でもねえ、俺たち兵隊さ!」 男はルイズの髪を掴もうとして、横から腕をつかまれた。リゾットだ。成り行きを見守っていたのだが、平穏に済みそうにないので手を出したのだ。 「なんだてめえ! 関係ねえだろ!」 「彼女は俺の連れだ。すまない。気分よく飲んでいたのに、無礼をした」 リゾットは淡々と、静かな声で謝罪する。やる気になれば全員叩きのめすことができるが、今回はどうみてもルイズが悪い。無用な争いは避けたかった。 「ルイズ、お前も謝れ」 「な、何で私が……」 「ルイズ」 リゾットに強い語調で咎められ、ルイズは観念して謝った。 「ごめんなさい」 男はリゾットとルイズを交互に眺め、白けたような顔で唾を吐くと、仲間たちに促し、去っていった。 「…………」 それを見送るリゾットの背に、ルイズの蹴りが命中する。 「何をする」 「な、なな、何で私が平民の、しかも傭兵なんかに謝らなきゃいけないのよ。こんなことしてたら貴族の権威が下がるでしょう!?」 怒りの余り、ルイズの声は震えていた。先ほどはリゾットに促されて思わず謝ったが、今頃になって屈辱が湧いてきたようだ。 「相手が何であれ、自分のしたことの責任を取るのは当然だ……。謝った程度で下がる権威など捨ててしまえ」 そこでルイズはリゾットが異世界人であることを思い出した。貴族や平民といった階級意識に疎いのだ。そして、『責任』を果たすことに拘る。 ここは自分が譲歩すべきなのだろう、結果的には守ってくれたわけだし、と諦め、また歩き出そうとすると、リゾットに肩を掴まれた。 「何よ?」 「俺の後についてこい。道は作ってやる」 そういって、ルイズの先を歩き始める。先を行くリゾットのお陰で、ルイズは混雑した道を悠々と歩くことができた。自然とリゾットに寄り添って歩く形になる。 しばらく歩くうちに、それに気付いてルイズは赤面した。リゾットが前をむいていて、顔を見られないのが救いだった。最も、見たところでリゾットは無表情だったかもしれないが。 余裕が出来ると、ルイズは街の様子を見回した。街はお祭り騒ぎで、楽しそうな見世物や、珍しい品々を取り揃えた屋台や露店が通りを埋めている。華やかな街の様子と、リゾットが守ってくれているという安心感が、ルイズの機嫌を直させる。 「凄い騒ぎね」 ルイズがつぶやくと、リゾットは僅かに頷いた。 「祭りを仕事以外の用事で歩くのは久しぶりだ」 「そうなの?」 「ああ……」 そう呟くリゾットの口調は何か思い出しているようだった。きっと以前歩いた時のことだろう。 「リゾットの世界のお祭りってどんなの?」 「ここと大して変わらない。いろんな屋台や露店が立ち並んでいて、人が大勢歩いている。後は皆で踊ったり、音楽を奏でたり、騒いだり、花びらを敷きつめて道に絵を描いたりする」 「花びらで絵を?」 「ああ……」 ルイズはリゾットのコートの背中を握った。すぐそこにいるのに、リゾットを遠くに感じたのだ。 腹の立つところもあるが、ルイズはリゾットを頼りにしていた。どこへも行って欲しくなかった。ただ、それが単純にリゾットが使い魔として役に立つからなのか、もっと別の感情からなのか、ルイズ自身にも解らない。 (解らない? 違うわ。リゾットが役に立つからよ) ルイズは自分にそう言い聞かせ、辺りを見回す。そこでわぁ、と声を上げて立ち止まった。 「どうした?」 リゾットも立ち止まり、振り返る。ルイズは露天の宝石商を見ていた。立てられたラシャの布に、指輪やネックレスなどが並べられている。 ルイズがそこから動かないので、リゾットも自然、そこを覗く事になる。客が来たことに気付いて、頭にターバンを巻いた商人がもみ手をした。 「おや、いらっしゃい! 見てくださいよ、貴族のお嬢さん。珍しい石を取り揃えました。『錬金』で作られたまがい物じゃございませんよ」 「……何かこの調子、お前を買った武器屋の親父に似てないか?」 「まあ、商売人ってのはこんなもんだよ、相棒」 何となく胡散臭げな目で店を見るリゾットとデルフリンガーをよそに、ルイズは商品を見ている。並んでいるものは大概、貴族が身につけるにしては装飾がゴテゴテしていて、お世辞にも趣味がいいとは言えない代物だった。 ルイズはその中から、ペンダントを手に取った。貝殻を彫って作られた、真っ白なペンダント。周りには大きな宝石がたくさん嵌め込まれている。だが、よく見ると作りはちゃちで、宝石にしても安い水晶に見えた。 だが、ルイズはそれが気に入ったらしい。公爵家令嬢として一流のものばかり見てきたルイズにとってはかえって安っぽいものが珍しかった。祭りの騒がしい空気もその気分を助長していた。 「お嬢さん、いいものを選びましたね。それなら四エキューですよ?」 商人は如何にも愛想がいい笑顔を浮かべて言った。しかしルイズは困った顔をしている。金がないらしい。 「四エキューだな」 リゾットは金貨四枚をだした。 「はい、毎度あり」 商人からペンダントを受け取ったルイズは、しばし呆気に取られたが、思わず頬が緩んでしまった。 普段、リゾットがまるで冷静であまり感情を見せないだけに、こうやって露骨に優しくされた喜びはひとしおだった。 手でしばし弄繰り回したあと、浮かれながらペンダントを首に巻く。お似合いですよ、と商人がお愛想を言った。 「おれでーた。相棒、意外に器用だね」 デルフリンガーもリゾットの意外な行動に驚いているようだった。 「まあ、俺のせいだからな……」 何故か遠い目でリゾットが呟く。 今でこそリゾットは事業のお陰で好きにできる金があるが、当初は戦いのたびに死にかけるリゾットのための秘薬代はルイズが負担していたはずだ。他にもデルフリンガーを買ったりした金などもルイズが支払った。つまり、ルイズの現在の困窮の原因はリゾットにあるのだ。 とはいえ、ペンダントをつけて嬉しそうに見せてくるルイズを見ればそう悪い気はしない。すっかり上機嫌になったルイズの前に立って、再びリゾットは歩き始めた。 ついでにより道をして、服を買い込んでおく。人から譲ってもらった服と元の服では戦闘での破損もあり、着まわすのも限界に来ていた。 一通り買い物を済ませ、学院寮に戻ろうという頃、リゾットは空に街ではまず見ないものをみつけた。ルイズもそれに気付く。 「シルフィード?」 タバサの風竜が街の上空に浮いていた。その背から小さな人影が降りる。髪の色からして、まずタバサで間違いないだろう。 「あの子、タバサよね? 何してるのかしら、こんなところで」 「本でも買いに来たんだろう……」 「でも、あっちに真っ当な店はないわ。その……ちょっと危険な区域だから」 ルイズが呟く。要するにどこの町にもある、治安の悪い場所なのだろう。 リゾットは頭の中で地図を確認し、内心舌打ちした。 どうしてこう、人が厄介ごとを避けようとしている時に仲間が厄介ごとに飛び込んでいくのか。 アニエスから聞いた不審な殺人事件、それが起きている地域がちょうどその辺りなのだ。 そちらに向かったからといって件のスタンド使いと偶然出会う、という確率はきわめて低いが、リゾットは嫌な予感がした。 「ルイズ、俺はタバサを探しに行くが……」 「私も行くわよ」 「……解った。スタンド使いと遭遇することも考慮にいれておけ」 「どういうこと?」 ルイズは先ほど、アニエスの持ちかけた事件を知らないらしい。 「移動しながら話す。デルフ、何か怪しいものを見かけたら教えてくれ」 「任せときな、相棒」 二人と一振りはタバサが降りた辺りに向けて移動し始めた。 タバサは急いでいた。先刻、王家から任務の通達があったのだ。今回の任務はガリア王国にある実家で伝達されるという。 タバサはその命令を受け取ってすぐにトリスタニアに向かった。 密かに注文した秘薬を受け取るためだ。タバサは母親のため、スクウェアクラスの水メイジの秘薬屋を探し出し、宝探しの分け前全てを使ってある秘薬の製作を依頼していた。 タバサの母親は叔父王から水魔法の毒をタバサの代わりに飲んで心を狂わされた。 だが、魔法で狂わされたなら魔法で治すこともできるはず。『固定化』をかけられた物体もそれを上回る力で『錬金』すれば変質させることができるように。 だから最上級のスクウェアクラスメイジに高価で貴重な材料を幾つも使わせて薬を作成してもらったのだ。 これで治らなければ、いよいよ先住魔法の可能性を考えなければならず、治療の目処はかなり遠ざかる。 「きっと治る……」 タバサは祈るように呟いた。暗くなりがちな気分を振り払うため、母が正気を取り戻した場合のことを考える。 しばらくは監視すらついていない実家にいてもらえば悟られることもないだろう。 客があった時だけ治っていない振りをしてもらえばいい。その間にどこか匿う場所を探す必要がある。 キュルケや、フーケを通して裏社会にコネがあるらしいリゾットに相談すれば何とかなるだろうか。 そこまで考えて、タバサは首を振った。どうも宝探し以来、自分は浮かれている。 学院やその周辺のことならともかく、ほかの事に二人を巻き込むのは甘えだ。 彼女たちは自分を頼ってくれといっていたが、頼ることと甘えることは違う。 甘えを抱えていては目的を果たすことなどできはしない。母親を治しても、自分の目的は終わらないのだから。 自戒しながら、秘薬屋の扉を開く。 薄暗い店内に入ると、奥へと歩いていく。 窓は塞がっているため店内に吊るされたランプが、壁にタバサや店内の商品の影を落としていた。 うめき声に、タバサは足を止める。声はいつも店主のいるカウンターの向こうから聞こえてきた。 タバサはカウンターの中を覗き込んだ。 「うう……っ」 そこには店主がいた。ただ、年老いた店主の足は酸でもかけられた様に溶けている。その傍らには溶けた杖らしき物体が転がっていた。『治癒』でもこうなってしまっては治らないだろう。周囲に人影がないことを確認すると、タバサは店主の傍らに屈み込んだ。 「何が?」 店主は空ろな目で答えた。 「……ネズミが……。薬は……そこに……」 店主は指でカウンターの下の鉄製の棚を指差した。タバサがそちらへ目をやると、店主はタバサを突き飛ばす。 すぐに立ち上がり、店主に振り返ると、頭部が溶けていくところだった。 最後の言葉も残せず、老婆はタバサを庇って死んだ。 「…………」 タバサの目に雑然と並べられた商品の間に潜んでいたネズミが映った。意識を集中して『感覚の目』でネズミを見る。 ネズミの前に何かがいた。 「スタンド使い」 瞳に僅かに怒りが覗く。その目がきゅっと細められた。一体どうやって店主を溶かしたのか、それを見極めるために。 しかし、ネズミは、商品の間に姿を消した。死角から奇襲するつもりだ。 タバサは、風を起こして商品を吹き飛ばした。ネズミが隠れる場所を探してカウンターの向こうへと走る。『エア・カッター』を飛ばしたが、動物独特の勘でも働くのか、見えない風の刃を回避した。 カウンターを盾にすると、ネズミが再びスタンドを出す気配がした。遠くへ行かないところを見ると、そこまで射程距離があるわけではないのだろう。 殺気を感じ、タバサは横に跳んだ。商品の幾つかがひっくり返る。 背後の壁にいくつかの穴が出来た。中心から円を描くように穴が広がる。どうやらこのスタンドは、何かを飛ばしているらしい。 射撃と同時に場所を移動したのか、ネズミは姿を消していた。だが殺気は消えていない。雑然とした店内で身を隠し、ここでタバサを仕留めるつもりだ。 タバサはマントを外し、左手で構えると、壁を背にした。ルーンを詠唱し、氷の矢をいつでも放てるよう、空中で待機させる。 先の攻撃は見えなかった。タバサは目を凝らし、耳を済ませ、全身の感覚全てを集中させ、スタンドを『視る』ことを意識する。 神経が磨り減るような時間の中、タバサは顔色も変えずに待ち続けた。 やがて、タバサは目の端に動くものを捉えた。即座に氷の矢を放つ。氷の矢と入れ違いに、タバサに向かって三本の針らしきものが飛んできた。マントを力いっぱい翻し、針を叩き落す。 溶け落ちたマントを捨て、ネズミに目をやる。ネズミは右前足を氷の矢で切断され、威嚇の声をあげていた。 追撃の魔法を唱えたが、それが届く前にネズミはまた姿を消す。 タバサは再び壁を背にしながら、カウンターの下の棚に『アンロック』を唱えた。だが、より強い『ロック』がかかっているせいか、鍵が外れた様子はなかった。 破壊することも考えたが、慎重にやらなくては中の薬が破損するかもしれないし、隙ができる。ネズミを倒した後でゆっくり開けるべきだろう。 先ほどはスタンドの出した針がぼんやりとだが見えた。今度はもっとはっきり見るために、もう一度集中する。 相手は足を一本失い、こちらは防御するためのマントがを失っている。 今度は針を自力で回避するか、さもなくば相手の矢がこちらに届く前に相手を仕留めなければならない。 死ねばスタンドは解除されるから、相手の針も消えるはずだ。タバサは神経を研ぎ澄まして、相手が襲ってくるその時を待つ。 その時、タバサはこの場に似つかわしくない、水が流れ落ちるような音を聞いた。 「?」 しかもその音は店内の別の場所からも聞こえてくる。確かめたかったが、音が聞こえてくる辺りは雑然と商品が積み上げられており、ネズミが身を隠すところが多い。 近距離や背後から狙撃されては対応できないことを考え、タバサは動くことはできなかった。 やがて、ある臭いがタバサの鼻腔をついた。その臭いからタバサはネズミのやろうとしていることに気付いたが、既に時遅く、店内に吊るされたランプがネズミの針で落とされ、商品の向こう側に赤々とした炎が広がる。 「油……」 タバサは先ほどの水音の正体を呟いた。ネズミは油やそれに類する可燃性の液体が入った樽を、スタンドの針で溶かし、中身を床にぶちまけていたのだ。 予め撒かれていた油を伝い、あっという間に店内は炎に包まれる。小火程度ならともかく、油で勢いがついていてはタバサにもすぐには消火出来ない。逃げ場はある。タバサ自身が入ってきた入り口だ。だが、ネズミがそこで待ち構えているのは想像に難くなかった。 タバサは目的の薬がはいった棚が鉄製で出来ており、炎の中でも大丈夫そうなことを確認すると、高速で頭を回転させ、対策を考え始めた。 壁を風の魔法でぶち抜いて逃げるという手もなくはない。だが、ネズミは傷つけられて怒り狂っている。街中まで追ってくるかどうかわからないが、追ってきた場合、多数の巻き添えが出るだろう。タバサは無意味に死者を出したくなかった。 では、このまま素直に出口から姿をあらわすか? 相手は既に狙撃の準備をしているだろうから、早撃ちでは負ける可能性が高い。まして煙の中だ。撃たれたことに気付かず、煙の向こうから一方的に溶かされて死亡、という可能性も高い。 考えるタバサを輻射熱が容赦なく炙り、熱された空気はタバサの喉を焼く。 タバサは煙を吸い込まないよう、姿勢を低くした。考える時間は、もうあまり残されていない。 ルイズとリゾットはタバサを探しに来たものの、不慣れな地域に迷い、なかなかその足取りを追う事が出来なかった。 目撃者に金を握らせ、やっとのことでタバサらしき少女が通った辺りに辿り着く。 「相棒、あれは?」 デルフリンガーの指摘にそちらを見ると、建物から煙が立ち上っていた。 「……火事だな」 「行ってみましょう!」 二人はそちらへと駆け出した。 ネズミは焦れていた。火勢はかなり強くなってきているにも関わらず、あの人間が出てこないからだ。まだ中にいるのは間違いない。まさか焼け死ぬつもりはないだろう。 入り口からは煙が絶え間なく出ており、視界はかなり悪い。 だが、影さえ見えれば狙撃可能だ。少しでも姿を現せば既に砲撃態勢に入ったスタンド『ラット』は最大十三連射で敵を跡形もなく始末する。 今度は反撃すら許さない。その後はゆっくり傷を癒し、自分の片割れを探しに行けばいい。 周囲に人が集まりつつあることもあり、これ以上ここで人間を襲うつもりはないが、前足を奪ったあの人間だけは生かしておくつもりはなかった。 やがて煙の中から人影が出てきた。すかさずネズミは『ラット』の弾を乱射する。何発かはわざと外し、跳弾の要領で別角度から撃ち込んだ。 全弾命中。人影は形を保つこともできず、溶け落ちる。ネズミは勝利を確信した。 そして背を向けた瞬間、ネズミの体は氷の矢に貫かれた。 「ギッ?」 矢は体を貫通し、地面に突き立っているため、動くことができない。だが、背後に先ほどの人間が立ったのが解る。何故死んでいない? まさか外したのか? 確かに命中させたはずなのに。 ネズミの小さな脳に様々な疑問が駆け巡る。だが、その思考は氷の矢を中心に全身が凍結したことにより、強制的に中断させられた。スタンドに目覚めたネズミは片割れである『虫食い』に出会うことなく、この世から消えた。 タバサは完全にネズミが死んだのを見届けると、珍しくため息をついた。背後に目をやる。そこには完全に液状化した店主がいた。 風を死体に絡みつかせて、人形のように操作する。本来なら生きている人間を拘束し、操る魔法であるが、筋肉の反応のない死体でも歩かせることくらいはできる。死体を先行させ、ネズミに先に撃たせてから位置を割り出し、反撃する。 ただそれだけの作戦だったのだが、生き残るためとはいえ、自分を庇ってくれた人間の遺骸を利用したことは、タバサにいつも以上の疲労を感じさせた。 燃え盛る家屋に『アイス・ストーム』を唱える。雪風が吹き荒れ、炎の勢いはだいぶ弱まった。周囲も気付いたのか、消火作業が始まっている。 こういった治安が悪い場所であっても火事に対しては全員、最優先で協力することが暗黙の了解として決まっている。火事は周囲に燃え広がる可能性がある、全員の問題だからだ。 近くにいた『土』のメイジが『錬金』で燃える油を土にも変換している。この分なら、そう時間もかからず鎮火できるだろう。 「タバサ!」 背後からルイズが呼びかけると、タバサは振り向いた。顔が煤で汚れ、マントはなくし、制服は所々焦げている。 「ちょっと、大丈夫?」 「大丈夫」 無表情に答えてから、タバサはルイズの背後のリゾットに視線を向けた。 「スタンド使いに遭遇した」 「どんな奴だ?」 「針を撃ってそれに触れたものを溶かすスタンド使い」 杖の先で半ば凍結したネズミの死体を指し示す。ルイズがそれを見てちょっと嫌そうな顔をした。 「ネズミじゃない」 「そう。ネズミのスタンド使い」 「この辺りで人間が溶かされる事件が発生していた。……犯人はこいつだな」 「さっき言ってた事件? お手柄じゃない!」 ルイズがそう言ったが、タバサはどうでもいいようで、無表情を崩さない。 「しかし酷い格好だな。……火事に巻き込まれたのか?」 頷くタバサの顔を、リゾットが布でぬぐってやる。 「そうね。せめてこれ、着なさいよ」 ルイズも自分のマントを脱ぎ、タバサに着せた。タバサはされるがままだっ たが、リゾットが顔をぬぐい終わると、その手から布を取った。 「洗って返す」 「そうか」 「こんなところに何か用だったの?」 ルイズが尋ねたが、タバサは頷いただけで何の用があるかは言わない。 他人の事情を根掘り葉掘り訊くのはトリステイン貴族の礼儀ではないし、ルイズもいい加減、タバサの無口には慣れてきたので、それ以上は追求しない。 しばらく三人で鎮火作業を眺めていた。火がある程度収まったのを確認すると、タバサはリゾットに向き直った。 「手伝って欲しい」 「……何をだ?」 答えず、タバサは店内へ入っていく。リゾット、ルイズも後に続いた。タバサはカウンターがあったと思われる場所で足を止め、その下の鉄の戸棚を指し示す。戸棚といっても鍵がかかるようで、半ば金庫のようだったが。 「開けて欲しい」 「ちょっと、タバサ! 止めなさいよ、火事場泥棒なんて」 嫌悪感を露にするルイズに、タバサは首を振った。 「この中に私の注文した薬が入っている。強力な『ロック』がかかっていて、開けられない」 そしてリゾットの目を見つめて言う。 「お願い」 「……解った」 リゾットとしては火事場泥棒だろうとそうでなかろうとあまり興味がない。 が、タバサの目から真剣さを読み取ったため、引き受けることにした。メタリカを使って合鍵を作り、鍵を開ける。これで開かないなら扉を丸ごと鉄分に戻すところだが、すんなり開いた。 「開けたぞ」 タバサは頷くと、棚に手をつけようとして、引っ込めた。熱されていることに気付いたのだ。杖を振り、表面の温度を下げる。改めて戸棚に手を伸ばす。 棚を開けると、熱膨張のせいか、中の小瓶はいくつか割れていた。薬品の臭いがタバサの鼻を掠めるが、危険がないと判断すると、中から瓶を一つ取り出した。 まだ熱かったが、ここで冷やすと割れかねないので、鍋つかみの要領で布を間に挟んで持つと、持参した鞄の中にそっとしまった。 「満足か?」 タバサは頷いた。 「そうか」 相変わらずリゾットは無表情だ。その顔から目を離し、外に出ようとして……タバサはリゾットから目を離せないことに気がついた。 何故か心拍数が急上昇していく。常に白いタバサの頬がみるみるうちに赤くなっていった。 頭を振る。何かがおかしい。 胸を抑えるが、動悸が収まらない。むしろ激しくなった。 「どうした?」 リゾットが声を掛けてくる。タバサは首を振った。 「もう出ましょう。あまりここにいると誤解を受けるわ」 ルイズが促して、リゾットとともに外へ向かう。タバサは慌ててリゾットのコートの裾を掴み、ついていった。何故そうしたのか、自分でも上手く理論的な説明ができない。あえて言えばリゾットと距離を置きたくないという情動の結果なのだが、その情動に対する合理的な説明ができない。 「ルイズ、あのスタンド使いが倒されたことを城に報告するべきだと思うが」 「そうね。お城の衛士にでも言っておきましょ。タバサの手柄なんだから、一緒に来なさいよ」 ルイズがそう言うと、タバサは頷いた。 「どうしたの? 顔が赤いわね。風邪?」 「かも知れない」 「無理はするなよ」 「……うん」 三人は雑踏の中へと歩き出す。そのうち一人に起きた変化に、まだ本人以外は気付いていない。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/zokzok_heros/pages/107.html
ギャラボーチョ 属性、メタル属性 HP 182 MP 82 攻撃 50 防御 35 すばやさ 34 特殊攻撃 パワースラッシュ(無属性)通常の1.8倍の攻撃力で相手を攻撃する ヘッドカッター(無属性)通常の2倍の攻撃力で相手を攻撃する キレあじUP(メタル)自分の攻撃力をアップする 出現タイミング 第四章 第四章のイベント戦 サブイベント 出現場所 1丁目 3丁目 4丁目 5丁目 6丁目(イベント時のみ) 湖 浜辺 経験値 85 お金 520円 ドロップアイテム ほうちょう 変身前の姿(ギャラボーチョ)
https://w.atwiki.jp/hdlwiki/pages/587.html
GIRLSブラボー Romance15 s 通常版 【メーカー】角川書店 【発売日】2005/1/27 動作報告 V4 幕120G HDLメモカブート Dump_GUI使用 互換設定無し 起動確認 クチコミ一覧 #bf
https://w.atwiki.jp/metatronnote/pages/33.html
ジャカルタ発→ケープ行 曜日 発時刻 着時刻 料金 船名 備考 月~金 08 50 12 50 18 00 22 00 09 20 13 20 18 30 22 30 231,000 サンタ・アニエス号 リスボン行に連絡 折り返しジャカルタ行 土・日 08 50 12 50 17 00 21 00 09 20 13 20 17 30 21 30 ジャカルタ発→カリカット行 曜日 発時刻 着時刻 料金 船名 備考 月~金 09 50 13 50 19 00 23 00 10 10 14 10 19 20 23 20 44,000 サンタ・ヴァレリー号 土・日 09 50 13 50 18 00 22 00 10 10 14 10 18 20 22 20
https://w.atwiki.jp/bravelysecond/pages/116.html
キャラ ジョブ BGM 名言・迷言 キャラ 順位 選択肢 得票数 得票率 投票 1 プロビデンス【第2形態】 16 (19%) 2 マグノリア・アーチ 9 (11%) 3 教育学部長 9 (11%) 4 ブラッディ・ガイスト 7 (8%) 5 イデア・リー 5 (6%) 6 アナゼル・ディー 4 (5%) 7 ティズ・オーリア 4 (5%) 8 アニエス・オブリージュ 3 (4%) 9 ツバキ 3 (4%) 10 リングアベル 3 (4%) 11 エイミー・マッチロック 2 (2%) 12 プロビデンス【第1形態】 2 (2%) 13 ポラン二等兵 2 (2%) 14 ユウ・ゼネオルシア 2 (2%) 15 ヨーコ 2 (2%) 16 アルタイル 1 (1%) 17 アンジェロ・W・パネットーネ 1 (1%) 18 アンネ 1 (1%) 19 クー・フーリン 1 (1%) 20 チャラン軍曹 1 (1%) 21 デニー・ゼネオルシア 1 (1%) 22 ニコライ・ニコラニコフ 1 (1%) 23 ファンダル・ゼネオルシア 1 (1%) 24 ベガ 1 (1%) 25 ミネット・ゴロネーゼ 1 (1%) 26 リーファ 1 (1%) 27 レヴナント・グレイス 1 (1%) 28 アヤメ 0 (0%) 29 アルフレッド 0 (0%) 30 グリード・ゼネオルシア 0 (0%) 31 ジャン・アンガルド 0 (0%) 32 ダンザブロウ 0 (0%) 33 ノルゼン・ホロスコフ 0 (0%) 34 マルマール 0 (0%) その他 投票総数 85 ジョブ 選択肢 投票数 投票 すっぴん 3 ウィザード 4 チャリオット 0 フェンサー 4 ビショップ 0 占星術師 1 ねこ使い 2 赤魔道士 0 シーフ 0 ソードマスター 0 召喚士 0 トマホーク 0 パティシエ 1 白魔道士 0 商人 0 黒魔道士 0 狩人 0 ナイト 0 忍者 0 エクソシスト 1 モンク 0 ヴァルキリー 1 海賊 0 スーパースター 1 時魔道士 0 暗黒騎士 1 ガーディアン 3 皇帝 7 聖騎士 2 妖狐 2 BGM 選択肢 投票 メインテーマ ブレイブリーセカンド (2) 捕らわれのアニエス (0) 用意はいい? (1) バトルオブオブリビオン (9) 幕開け (0) 正教首都ガテラティオ (0) これもいいよね (0) 束の間の休息 (0) 帝国軍のテーマ (0) ユウのテーマ (0) いざ冒険へ (0) 戦鐘が鳴る (0) 勝利の歓び ブレイブリーセカンド (0) 息を潜めて (0) あの時 (0) 試練への誘い (0) 迫る危機 (0) 喪失の日 (0) 試練の戦い (1) 敗北者たち (0) オシャベリーセカンド (0) チャラン&ポランのテーマ (3) マグノリアのテーマ (0) 暗闇を彷徨う (0) 魔物たちの巣窟 (0) 櫓舟を漕いで (0) ここ笑うところ? (0) 魔法学園都市イスタンタール (1) アルタイルとベガのテーマ.温泉郷ユノハナ (1) 湯船でかき分けて.山の上の隠れ里サジッタ (0) 海賊バルバロッサの巨大船、大激唱 (0) スーパースタープリンの巨大船、神アレンジ (2) 幾つもの壁を越えて (0) 本気出します! (0) I’m going all out ! (0) なめないでよね! (1) やっつけるぞ! (0) 空飛ぶ船 (0) バトルオブアンネ (2) バトルオブディアマンテ (0) バトルオブアンネ2 (0) 神へと続く道 (1) バトルオブプロビデンス (5) Last Song Ending ver. (2) ※デフォルトのBGMは除く 名言・迷言 順位 選択肢 得票数 得票率 投票 1 がんばリベンジ 1 (100%) その他 投票総数 1 )
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2361.html
「船長! 左舷後方に船影です!」 「ありゃこっちと同じ、貨物船だな。こんな時間に出会うとは、珍しい」 「どういうこと?」とルイズが会話に割り込む。 「出航する時に言ったとおり、風石ってのはえらく高くつくもんでしてね。風石を多めに 使っても構わない程の、よほど貴重な荷を運んでるんでもないと、こんな時間にこの辺り を船が通る訳がねえんですよ」 「なるほどねえ」 「ま、あっしらがここにいるのは、あのおっかねえ姐さんに脅されて無理やりなんで、風 石の不足分は何とかしていただきますぜ。でないと全員仲よくお陀仏ですからな」 「そりゃ大変よねえ」 「ですから早いところ、あのメイジの方を起こしてもらって、風の魔力の方を一つ……」 その肝心のメイジが水のトライアングルだと知ったら、この男はどれだけ慌てるだろう 。思わずバラしてしまいたくなる衝動に耐え、ルイズが本題に入る。 「そっちの方はうまくやるわよ。そんなことより朝食はまだなのかしら?」 「朝食って、さっき喰ってた肉じゃ足りないんで?」 そもそも勝手に喰うんじゃねえッ、とツッコミたかったが、そこは抑える。あのガンマ ンも怖いが、この傭兵の傍若無人さも、侮ったら痛い目を見ると本能が告げている。 「成長期なのよ」 『そうだぞルイズ、まだまだこれからだ。諦めるんじゃあない』 さすが実体を持たないポルナレフ! 常人には決して口にできない事を平然と言っての けるッ、そこにシビれる! あこがれるゥ! 空気を読めないのはむしろ特技だ。 「!」 ルイズが放った突然の凄みを、こいつは喰うといったら喰うスゴ味がある! と勘違い した船長が諦めたように言った。 「ちっ。また適当に見繕って済まして下さいや」 「そうさせてもらうわ。じゃあね」 何を諦めるなだってェ? とかなんとか、ぶつぶつ呟きながら船倉へ降りて行く、若い 傭兵を眺め、船長はやれやれとため息をついた。 「後方の船は、当船との併走コースに入るものと思われます」見張りからの報告が入る。 「そうか、この辺もそろそろ物騒な領域に入るからな。二隻で組んで行けるなら、それに 越したことはないだろう。砲門の数も倍になるしな」ちらりと笑みがこぼれる。 「よし、向こうもそのつもりだろうから、確認しておけ」 「あいあいさー」 船長の推測は道理である。しかし残念ながら、この状況は既にその埒外にあり、強引な 四人の乗客が予想して期待した、そんな展開を迎えようとしている。 「なんと言ってきた?」 「いっしょにあるびおんにいこうね。だそうです」 訊いた男の引きつった顔面に、獣の笑みが浮かぶ。コートの内にある鉄棒を布地越しに さする。いいぞ、とてもいい。 「で、ど、どうしますんで?」怯えきった声の男が問う。ルイズたちの船に追いつこうと している貨物船――身を軽くして急げと、全ての荷は捨てられているが――の、船長であ る。たまたま、そこに船があったというだけの理由で、この凶相の傭兵に徴発された、運 の悪い船の、運の悪い男だ。 「よろしくです。とでも言ってアレの横に着けろ。追いついたんだ、ここからはゆっくり でいい」 「へ、へい」あたふたと、船員に指示を出す。 手旗を振っている船員を眺めつつ、手下どもの待つ船室へ向かう男。その二つ名は白炎 という。 船ごと燃やして落とせとの指令だが、それじゃあつまらん。最後の一人が燃える匂いま で嗅いでやるのが、礼儀ってもんだ。特にあの女、あれは存分に抗いながら、いい香りで こんがり燃え尽きてくれそうだ。ああ楽しみだ。 「おうお前ら、仕事だ」 酒場での戦闘に参加させなかった十数名の傭兵、全員がメイジである部下たちに告げる 。どいつもこいつも、ろくでなしの貴族崩れだが、人殺しの経験だけは買える。おまけに 、死んだらカネで補充できる。さして高くもないカネで。こんな任務にはおあつらえ向き だ。 「いいか、焼いていいのは俺だけだ。殺す方は好きなだけ楽しめ」 「了解」 さあ戦だ。敵も味方も、存分に死ね。 「来るわよ」 朝食の干し肉を噛み千切りながら、王女の傭兵が主人のいる船室に入って報告する。二 日酔いでえらく不機嫌な姫が、気だるげに手を振る。もう一人は反射的に戦闘から離脱し てしまって、少し気まずい思いのアニエス。船の確保は果たしたとはいえ、状況から見れ ば同僚を戦場に捨てて逃げたと、思われても仕方がない。 「それは、この頭痛を晴らしてくれるくらいには、楽しめるのかしらね」 「さあどうだか。で、どうします? またわたしがこう、がつんがつんと」 「で、殿下! この場は何卒わたしにお任せを!」いささか切実な口調で懇願する。 「その呼び名は禁句ですよ、アニエス」 昨晩の安酒場で王女を云々と叫んでいた事など、さっぱり記憶にないアンリエッタが叱 咤する。 「まあ、それはともかく。わたくしがひと暴れする前の露払い、努めてもらいましょうか 」 「はっ、決してご期待には背きませぬ」 『おいおい。いいのかね、あの姉ちゃん行かしちゃって』 『いやいや、あの子はあれで侮れない実力があると見るぞ、私は』 元剣士の見立てだろうか、やけに自信のありそうな分析をするポルナレフ。かたやデル フは未だアニエスに握られたことがないので、その実力がどれほどか、その肝心なところ を知れないのが不満らしく、否定的だ。 「どうだかねえ」 「何だとコラ。わたしの腕が当てにならないと吐かすか!」 「あんたに言ったんじゃないわよ! って。そうよならないわよ! あんた昨日の――」 「やめなさい。仲よくしないと、わたくしが許しませんよ」 「ちっ」 「なな、何だその態度は! 畏れ多くもッ」 騒ぐ二人をぎろり、と睥睨するあらくれ。その瞳はもはや、高貴な光を湛えていない。 「……月夜の晩ばかりじゃないぞ」 「……あんたこそ、またブチのめされたくなかったら――」 猛る狂犬どもを従える面倒臭さにため息をついて、拳骨を二つくれたのち、王女は甲板 に上がった。 二隻の船が並ぶ。眼下に雲、天上に太陽。傍からその風景を見る者があれば、ちょっと 絵にでも描いてみようかと、思うかも知れない。 「行け野郎ども!」 「行くわよ!」 しかしそこで始まるのは戦だ。どちらかが必ず惨めに敗北する戦だ。 まるで開戦の合図があったかのように、二隻の船の船室から同時に飛び出す傭兵ども。 かたやわらわらと傭兵の群れ、こなた銃と剣の使い手が一人、と、杖を振り回すメイジが また一人。 「空賊だったっていうのか! この空域で、あの貨物船が?」 「船長! 鉤ロープで捕獲されました! 離脱不可能です」 「くそうっ。何なんだまったく。昨日から散々だ!」 とにもかくにも死んだら終わりだ。船員に一切の抵抗を捨て、状況が納まるまでどこで もいいから亀のように引っ込んで、決して動くなと指示を出す。そしてとても嫌そうに、 乗り込んできた一団の、首領とおぼしき人物へと向かった。もちろん、降伏をするために 。 「邪魔だ!」 両手を上げて甲板を進む船長を蹴り飛ばした、アニエスが怒鳴る。両手に銃把を握り、 双眸をギラつかせている。目標は殿下の覇道に転がる石ころ、容赦も慈悲も必要ない。連 射性能の望めないこれが有効なのは、初弾の二発。これを速攻で敵の首領にブチ込む。残 る雑魚共は剣で殲滅する、これで任務完了だ。このわたしの前に立ったこと、後悔させる 暇さえ与えない―― 必中の手応えを確認し、では残党を狩り尽くしてやるかと、火傷顔からその取り巻き共 に視線を移して甲板を蹴ろうとした瞬間、予想外の衝撃がその身体をブッ飛ばす。半身を 襲う、ぶすぶすと肉の焦げる臭い、尋常でない激痛が骨の髄まで轟く。 「なん……だと……」燻る右半身を反射的に上にひねって倒れながら、既に倒したはずの 男に視線をやり、その身体に血飛沫の一つもないことに絶望した。ありえない、そんな規 格外の暴威、銃弾すら凌駕する魔力だと、何だこれは。で、殿下ッ、この男は危険です。 わたしがすぐに参りますから、この男に近づくのは…… 「わたくしの盾に瑕をつけてくれたようですね」 部下の無残を前に毛ほども揺るがない、平静そのままの声でアンリエッタが高らかに宣 告する。執行が決まった死囚へ告解を施すような表情だ。神の執行代理人として裁定者と して、これから行うことが救済であると、行われなければならない断罪であると、覚悟を 求める顔だ。 「焼き応えのない姉ちゃんだったな。匂いがもの足りねえ」 「なればわたくしが、その炎を消して差し上げなければ参りませんね」 「できるか? やってみろ。受けてやる」背後の部下に向けて怒鳴る。「この女とサシの 勝負だ、邪魔をして俺の機嫌を損ねるんじゃあねえぞ!」 何しろ火線上にいた、というだけの理由で味方ごと、黒焦げの死体にした事のある男の 命令だ。誰だってわが身は惜しい。まあどうせすぐに終わるさ、と詠唱を中断して傭兵た ちはしばしの見物を始めた。 対峙する二人の背後に現れた、アルビオン大陸。『白の国』の形容そのままに、流れ落 ちる川の流れが霧と変わり、雲となり大陸を白く煙らす。氷の憤怒を纏う水の王女が、そ の力の根源を呼びながら進む。 「消し炭にしてくれる!」叫ぶ声が小さく、遠く聞こえる。 水の鎧を絶え間なくその身に現し続け、火の傭兵へと歩を進める。業火が踊っている甲 板を弛まなく歩む。一歩、足が触れるごとに、その周辺の炎が力を失い、掻き消える。ル ーンを刻む口唇が嘲るように歪んでいく。万人を鎮め、万物を水平に至らせる我が水の力 、侮るでない。 「『火』も『水』も無駄ッ!」その声と杖が放たれた瞬間、辺りの炎、その全てが霧散し た。 「なるほどたいしたもんだ」絶対の自信の源であった炎を無効化されたというのに、不敵 な笑みを浮かべたままの男がほざく。「火と水、相性が悪いとはいえ、この俺の炎を消し てみせるとは。だがな、魔法が効かないなら、効かせてやることもできるんだぜ」 杖代わりの鉄棒をすっと引き、構える。 「その杖を叩き落しちまえばなあッ!」 アンリエッタの手にする杖を、その身体ごとなぎ払わんと鉄棒が振るわれる。当たれば 杖は折れるだろう、細身の身体も無事では済まないだろう、当たれば。 「ぐお」杖を手放したのは、果たして傭兵の方だった。絶妙の払い流しが鉄棒の軌道を変 え、空振り甲板を打たせる。そこをすかさず巻き落しにて逆に捻ったのだ。どれほど力が 強くとも、関節の稼動域を超える作用に逆らうことはできない。間、髪を容れずアンリエ ッタの腕がしなり、その先の杖が腕部の急所――手首・肘・肩口――を突く。 相手の杖が甲板に転がるのを見やり、詠唱を開始する。技と力を封じられた傭兵の顔色 が褪めていく。ありえないことが二度続いたのだ、無理もない。 「……燃やしてやる……こんな現実は燃やしてやるよ……」棒立ちの傭兵から呟きが漏れ ている。少し、目が虚ろだ。 「跪け!」詠唱の完成と同時に杖を振り下ろし、命令を下すアンリエッタ。既に決してい るように見える勝負、しかしこのアンリエッタ容赦せん! とばかりに水の魔法が振るわ れる。水球が傭兵の頭部を丸ごと捕らえ、息を奪う。哀れな男がごぼごぼと息を吐き出し つつ倒れ、悶える。その姿を感慨もなく見下ろし、振り返る。「船長?」 「へ、へい」甲板と大砲の間に押し込まれた格好で震えていた船長が、恐る恐る顔を覗か せる。 「この男を拘束してもらえるかしら?」 「いますぐやりますですハイ」いつのまにか、立っている空賊が一人もいなくなっている ことに驚き、慌てて部下たちを呼び集め、指示を出す。ようやく水球から開放された男は 、おとなしくぐるぐる巻きにされている。苦しげに水を吐き出しながら。 「さて」縛られて転がる男に再度、杖を向けて問う。「そなたの炎、なかなかのものと見 たので欲しくなりました。わたくしに従うのであればその命、買い上げましょう」 苦しげな動作で頭を垂れ、肯定の意を示す男。ここで殺せなどと強がったら、一体どん な殺され方を味わうはめになるのか、想像もしたくない……。 「よろしい。その炎、以後はわたくしの為にのみ、揮いなさい」 火と水の戦いの間。船尾から隣の船に乗り移ったルイズは、ただ一つの動作に没頭して いた。休めの姿勢で見物に興じる傭兵どもの背後にまわり、ポルナレフに教わった、人体 を即死に至らしめる一点、腎臓に刺突を繰り返す。 「腎臓を中心に捉えて……刺す、腎臓を中心に捉えて……刺す、腎臓を中心に捉えて…… 刺す」声には出さず、そして声もなく苦痛もなく絶命する傭兵。簡単すぎて少し呆れなが ら―― だるそうな足取りでアニエスを引きずって、船室へ向かうアンリエッタの許に、一仕事 終えたもう一人の盾が歩み寄る。 「ありゃ、もう片付いちまいましたかい?」小刀の血糊を拭いつつ、軽口を叩くルイズ。 「ふふ、すっかり傭兵の口調が板についてますのね。ああ、あの者を雇うことにしました から、殺してはいけませんよ」と、空いた手を後ろの甲板で倒れ伏している傭兵に振る。 「そりゃ、まあ。って姉御!」 精神の消耗が限界に到達したアンリエッタが、膝をついた格好でアニエスをルイズの腕 の中に押し込み、崩れ落ちる。 『いい根性だ。この姫様には『黄金の意志』があるぞ、ルイズ』 「知ってるわよ。だから――」 何かを回顧するように、遠い目であらぬ方を見つめている、左手のポルナレフを振り回 しながら船室へ向かう。全開で死力を尽くした姫を、寝かせてやらなくては。アニエスは 床でいいか。つうかこいつ、服が焦げたくらいで終わっちまったのかよ。そんで主君に連 れられてご帰還とか、超へタレなんじゃないの? 二人をそれぞれ安置して、甲板で困惑顔の船長に声をかける。「どう? 生きてる?」 それが他の船員も含めての問いだと気づいた船長が答える。 「へえ、慌てて転んで足をくじいたのやら、小便を漏らしたのやら、みっともない次第で すが全員生きてますハイ」 それはよかったと頷き、焼け落ちた何枚かの帆を張りなおして、操船を再開させるよう にと命じると、舷側を蹴って隣の船に移った。 傭兵の死体をおろおろしつつ見つめている船員の肩を叩き、船長の所在を訊ねる。戦闘 が始まった拍子に一目散、船室へ駆け込んでそれっきりだそうだ。 「やれやれ」これならあっちの船長の方が十倍マシだわ。 船室のドアにはご丁寧に錠まで下ろされている。もう馬鹿にした笑顔満点のルイズが『 アンロック』を行う。もちろんそれは魔法ではなく、どちらかというと蹴りだ。 外開きのドアを無理やり内に蹴破って、船長らしき男を捜す。あ、あれだ。隅の暗がり に頭を抱えてうずくまり、尻をこちらに向けている男、あれに違いない。 「おい、おっさん。あんたが船長だろ?」尻に蹴りを入れるルイズ。 「ひゃい、い、命ばかりはお助けをー」 「ごろつきどもは始末した、もう死なねえから起きな」尻に蹴りを入れるルイズ。 「へ? た、助かったんですか?」 「ああそうだよ。だから起きろって」尻に蹴りを入れるルイズ。 安心より、尻を蹴る脚から逃れようと、よろよろと立ち上がる船長。貧相を絵に描いた ような顔の五十男が、卑屈な笑みを浮かべる。股間には特大の染みをこさえている。げ、 まさか濡れたとこ蹴ってないよな。ルイズは自分の船の船長の評価を、この男の五十倍に 修正した。 「あたしらはあっちの船の傭兵だよ」そういうことにしておくのが楽だと決めたルイズが 、靴に異常がないか確かめつつ言った。 「傭兵の方でございましたか、このたびはまことにありがたく――」 「まあ、それはいいからさ。この船はどこに向かう予定だったんだい?」 「ロマリアでございますです。積荷は捨てられてしまいましたが」 「へえ、それはよかった」そう、よかったのだ。ロマリアはアルビオンより遠い。風石も たくさん積んでいる。二隻でアルビオンに辿りつくのも可能だろう。いざとなればこの船 の風石を頂いて、アルビオンに向かう予定だったのだ、沈まずに済んだのは運がいい。 何がよかったのか理解できないでいる船長に、「いいからとりあえず船を動かせるよう にしな」と、やることを与えてやり、ルイズは自分の船に戻った。 「喜べ船長、予定通りに風石が届いたわよ」 「なんですと?」 すっかりメイジの魔力で浮力を補うとばかり、思い込んでいた船長が仰天した。そもそ もついさっきまで、拿捕されたり、降伏しようとしたり、魔法戦が始まったりと訳の判ら ない展開ばかり。その上お次は襲ってきた船が風石を届けにきてたって? 「で、ではあのメイジの方は……」 「疲れて寝てる。ちなみにあの姐さんは水のトライアングルだから」 「じゃ、じゃあ、あの船が」と指さし、「あの空賊どもがくるのを判ってたんで?」とさ らに混乱した船長が尋ねる。 「空賊じゃなくて、ごろつきどもに乗っ取られたんだけど、そんなところね。いきなり船 に火を放たれなかったのは、運がよかった。というか、あの大男の趣味が悪かったのがよ かった、そんな感じ」 「もう、なにがなにやらですよ」 「ま、あんまり考えない。悩むとハゲるわよ。風石の方は任せたからね」 仲間の元へ戻っていく傭兵の背を眺めながら、船長がひとりごちる。 「しかしまあ、一難去ってまた一難、それも終わっちまえば、もう何にもないだろうさ」 ――しかしそうは問屋が卸さない。悪いことのあとに良いことが待っているというのは 、そうなるといいな、という願望に過ぎない。 船内に平和が戻って半刻ほど経った頃だろうか。 「せ、せ、船長! 空賊です! また空賊です! 右舷上方!」 船を見ればそれ空賊と、すっかり思い込んでしまった見張りが叫ぶ。まったくこのこし ぬけどもが。俺はもう何がきても負ける気がしねえよ、この船の武装に敵う奴らがいてた まるか。 そんなヤケクソの境地に至った船長が、見張りの示す方向を見上げてつぶやいた。こり ゃまた、今度は軍艦かよ。砲門がずらっと並んでやがる。でもなんだ、どうせ乗り込んで くるんだろ? ご愁傷様だね。 「あの船は旗を掲げておりません!」ほらな。 「ようし、さっきと同じだ。停船して隠れちまえ。あ、隣の船にも伝えておけよ」 きびすを返し、傭兵たちのいる船室へ向かう船長。その顔には隠し切れない諧謔が現れ ていた。 「また出ましたよ。今度は軍艦ですよ」と船長が声をかけ、返事を待たずに船室へ入る。 あーあ、もう。何て緊張感のない人たちなんだ、まったく。 「起きて下さいよう」ゆさゆさとルイズの肩を揺する。 「んが」 「船長が起きろってよー、軍艦だってよー」と床に刺さった剣が喋る。 「もう……食べられないよう……」 「姐さーん、敵ですよー」と船長。 「姐さーん、敵だってよー」と剣。 「どうしたら起きてくれるんですかい、このお人は?」と、今度は剣に向かって船長。 「そうだねえ、大砲でもぶっ放せば起きるかもね」と剣が答える。 と、そこで実にタイミングよく、外から轟いた砲弾の音。ぼごん! その音が傭兵たちの何かのスイッチを入れたのだろう、ぐわしと眼が見開かれ、がばと 起き上がる二人、そして文字通り飛び起きる一人。 「なっ!? 寝たままの姿勢! 掌だけであんな跳躍を!」船長がぶったまげる。 「敵は何? 何人?」着地と同時に剣をつかんだルイズが船長に訊く。 「ぐ、軍艦でさあ、人数はいっぱいです!」 「あ、あれ? わたしさっき焼かれて……」五体満足に床から立ち上がったアニエスが首 をかしげている。 「わたくしの盾ですからね、治しておきましたよ」とアンリエッタ。 「おお、殿――ぐあっ」言いかけたアニエスに、笑顔で肘を叩き込むアンリエッタ。 「それはともかく、軍艦とはまたご大層な。まあよいですわ、手土産をもう一つ増やして 差し上げましょう」 「と、とにかくお願いしますよ!」まだ外の方が安全で平和だ、と察した船長が甲板に走 って消える。 「んじゃまたわたしが、こう、ずばんずばんと」と意気込むルイズ。 そこに羞恥で顔を染めたアニエスが割り込む。 「こここ、今度こそ、私めにお任せを!」 「無理じゃね?」鼻をほじるような声でルイズ。 「ば、馬鹿を言うな! 先ほどは少しばかり油断しただけだ!」 「まあまあ姐さんたち、ここは一つ協力し――ぐあっ」仲裁空しく豪腕パンチを食らうデ ルフ。 「ルイズ、アニエスもこのままでは浮かばれません、先陣は任せましょう」 『そうだぞルイズ、アニエスが可哀相だ。たまには――』空を切る右腕、ポルナレフは痛 くも痒くもない。 「ちぇっ、姉御がそう言うならそれでいいですよ」 「さ、お行きなさい。期待してますよ」 「ありがとうございます! で……姉御! いざ!」先の不様を反省したのか、銃を放り 出し、剣を抜いて甲板に走るアニエス。 「空賊だ! 抵抗するな!」とメガホンから空賊が怒鳴っている。 「どおりゃああ」と掛け声も勇ましく飛び出したるは王女の盾、アニエス。しかしその瞬 間、アニエスの頭が青白い雲で覆われた。アニエスは甲板に倒れ、寝息を立て始めた。 「眠りの雲……、確実にメイジがいるようだな」半笑いで冷静に状況を見るルイズ。 「……っ」こらえている、こらえているアンリエッタ。 「ありゃ。あそこで寝られたらちょいと厄介じゃないの?」デルフも冷静だ。 『うーん、あの子はやればできる子だと思ってたんだがなあ』ポルナレフは同情している 。 「しかたねえ、少し様子を見ますか姉御?」 「そ、そうねっ……っ」まだ何かをこらえている。 「船長はどこでえ」 おとぎ話の挿絵から抜け出たような、呆れるほど典型的な装いの、空賊の頭らしき男が じろじろと辺りを睥睨する。眼帯を巻いているので片目で。 階段の影からその様子を眺めていたアンリエッタが、予想だにしなかった、新たな方向 からの衝撃により、絶頂に達してしまったようだ。 「プッ ウヒヒヒヒヒヒヒ!! ハハハハハハハハーッ!」 腹を抱え、もう完全に無防備で爆笑を続けながら、空賊の頭へ向かうアンリエッタ。 そんな妃殿下の姿を唖然とした表情で見送るルイズ。空賊たちも同様だ。 「もうだめだ………こいつ、完全にイカれちまってるぜ……」 一人は眠らされ、一人は爆笑しながら頭の肩を叩いている。どうしたらいいんだオイ。 「フハハッ クックックック ノォホホノォホ……ホ、ひょっ、ちょっとあなた、こちら へいらっしゃい。ウヒ」 「な、なんでいおめえは」この容姿にも背後の軍艦にも動じることなく、俺の肩をばんば んと叩いて爆笑しているこの女は何だ。何がどうなってる。もしかしてこの格好、変なの かな……。 そうこうしつつも、ぐいぐいと腕を引っ張られ、船室に連れ込まれる頭。いいからいい からクックッフヒヒヒとまだ笑うアンリエッタ。困惑の極みながら、ルイズもついていく 。 首領を椅子に座らせ、呼吸を落ち着けるアンリエッタ。 「ぶ……っ、くはあ」よほど腹筋を酷使したのだろう、腹を押さえる表情が苦しげだ。 「何なんだと訊いている!」 「か……」 どうにか半笑いまでに回復したアンリエッタが頭に告げる。 「風吹く夜に」 「なぜそれをっ!」 「水の誓いを、ってこちらがわたくしの台詞よね。お久しぶり、ウェールズ・テューダー 」 「なんですと」ルイズが思わず突っ込む。このコスプレ野郎が皇太子だと。ありえん。 懐から鮮やかに青く光る指輪を取り出して、指先でくるくる回してみせるアンリエッタ 。 「しかし、君がなぜここに。そもそもまるで面影がないではないか」 「三年も経れば女は変わりますわ。あとは少しの変装で目を欺くなど容易いこと」 髪を煤けた金に染め、眉を細く酷薄な形に整え、鈍い色の口紅を差す。彼女が顔に施し たのはそれだけである。むしろその本質はその下、その豊かな双子の霊峰を、あらゆる方 向から締めつけ持ち上げ覆い、その造形を輪郭を一片も損なうことなく、遍く強調する黒 革の服だ。その拘束から唯一逃れるは中心に輝く丸窓から覗く峡谷、白磁のような透明感 と流水の滑らかさにて彩る絶景、漆黒と乳白が対照の妙を示す。闇の中のまたたく光だ。 老若男女を問わず、その威容を目にすれば、彼女の印象のほぼ全てはそこに集約される 。曰く、とんでもない谷間だった、と。顔の方は精々、おっかなかった、かな? という 程度で完結する。ちなみに、その更に下には膝上二十サントの短い、非常に短い黒革のス カートを纏い、腰にはゴツく太いベルトを無造作に巻いている。これはまたこれで、好事 家には垂涎の的になること請け合いだ。 「しかしあなたのそれは傑作ですわね」と、また発作がくるのを抑えつつ、アンリエッタ が言う。 「そうかな? 自分ではわりとよくできてると思うんだが」 「どれだけ装おうとも、あなたのそれは隠しきれませんわ。片方を塞いでいればなおさら です」 「こ、この眼帯がいけなかったのか?」 「眼帯をしている男がいたら、開いた方の目をどうしても注視しまうものです。そして、 そこにあるのが『王子様の瞳』では。これはもう笑ってしまいますわ」 「ううむ、やはり君には敵わないな」 「さあ、それを外してわたくしの美男子を見せて下さいな」 眼帯をアンリエッタに取り上げられたウェールズが、かつらを外し、べりべりとひげを はがす。美……美形だ! 「ああウェールズ。そうよ、そうでなくては……」 甘ったるい展開が始まりそうな予感に、ルイズは船室から逃げ出した。 ぽかんとした空賊たち、手を挙げるかどうか決めかねて困ってる船長、すやすやと眠る アニエス。ぐるぐる巻きの大男。ああもうしょうがねえなあ。 「船長、船を出す準備をしな。そんでお前ら、『王子様』はうちのボスと乳繰り合ってる から、ま、そういうことだ、元の仕事に戻りな。んで、起きろねぼすけ、オラ」アニエス に蹴りを入れるルイズ。 その言葉に目を丸くした空賊が訊ねる。 「え? あっしらの正体が割れちまったんで?」 「その喋り方ももういいから、ほれ、とっとと国に帰るんだよ」不機嫌そうにルイズが応 える。酒だ、今日はもう飲むぞ。 「皇太子が空賊の真似事とはねえ、いやあ、おでれーた」 『返り討ちにあって捕らえられたり、死んだりしたら、どうするつもりだったんだろうな 。国を滅ぼしたヴァカと、歴史に名を残してしまいそうなものなのだが……』 「うるさいわねもう。明日は戦争なんだから、今日は飲むのよ!」 担ぎ下ろした樽の蓋をデルフリンガーでこじ開け、杯をごぼりと沈めてワインを汲む。 穏やかな陽光の下、舷側を背に酒盛りを始めたルイズ。結果的にとはいえ、命を救われた とあって咎める者はいない。むしろ賞賛の目をちら、と向ける船員もいる。年齢で比べれ ば、この船の一番若い船員とルイズがどっこいであり、しかも女。そんな彼女がばったば ったとメイジの傭兵どもを切り伏せて見せたのだ、さもありなんである。 「ぷはあ、いい汗かいたあとの酒は格別!」 『しかしまあよく飲むな、私の祖国の連中といい勝負だ』 「フランス、だったわね」 『ああ、世界一のワインを醸す国だ。もっとも、この世界のワインを試したことがないの で、どちらが上かは判らないが』 「わたしがフランスのワインを確かめるわよ、いつかきっと」 『そうだな。君となら行けそうだ』 「姐さん! その時にはもちろん俺も一緒だよな!」 「そりゃ、杖を持たないで行ったら格好がつかないしね」 「ひゃっほー」デルフはとても嬉しそうだ。 『しかしデルフ、あっちの世界で抜き身の刀を背負っていたら、即、逮捕だぞ』 「心配すんなって相棒、その頃には姐さんも、もでる並みの立派な身体になってらい!」 「何よそのもでるって?」 「いやこれが相棒から聞いたんだけどさ、あっちの世界にはこう、すらっとした長身の超 絶美人たちが最高級の服を纏って、舞台を練り歩いたり本の表紙を飾ったりする仕事があ るんだと。しかもそれがそこいらの貴族なんぞより、がっぽり稼いでるっていうじゃねえ か!」 「ふうん、仕事にも色々あるのね」満更でもなさそうだ。 「いま十六だろ、姐さん。あと二・三年もすりゃ、凄いぜ。俺には判るね」 『秀逸な身体能力、鋼の精神、類いまれな食欲。私も同意する、ルイズ、君は伸びるぞ。 まさにあらゆる意味で』 「ちょ、何だって今日はそんなに褒めるのよ、何も出ないんだからね!」 「そりゃまあ、ほら。見ちまったからな。姐さんの『覚悟』を」 『敵と認めた奴ばらを、完膚なきまでに殲滅するのと同時に、味方、いや『敵ではない』 者の全てを決して傷つけさせない、その『覚悟』、尋常には身につかない黄金の煌きを、 見てしまった。かつて私が全てを託した男、その精神をすら越えんとする可能性を』 「わ、わたしは本能のままに暴れただけよ! 他の連中が死ななかったのは、運がよかっ ただけよ!」 「でもよ、あの姫さまとガンマンの姉ちゃんだけでここに向かってたら、酒場で全滅、船 に乗る前に全滅、傭兵の来襲で全滅、どう見ても三回は死んでるぞ、この船の船員も含め て」 「し、失礼ね! 姫さま一人だったら誰にも負けないわよ!」 「でもなあ、ほら、あの人は盾とか言ってるわりに、自分より部下の命を優先してるよう に見えるんだけど」ああ、確かにそう言われたら、そんな光景は想像に難くない。 『我々の期待がどうこうではないんだ。英雄を求めるのでもない。君が君のまま、立ちは だかる壁をぶち壊して拓く道を、並んで歩いて見たい。それがいまの私の望みだ』 「それだ! 俺もだぜ姐さん!」 「わたしもよ!」いい感じに盛り上がった雰囲気に押されて、つい。 そしてこの時、この日、三人(?)の心は一つとなった! 「ぶえっくしょっお」ぶち壊しのくしゃみが樽の向こうから炸裂する。うるさい、黙れ、 団体行動を乱すな。そもそもそのぐるぐる巻きをどうにかしろ。 ん? ああ、忘れてた! 傭兵の首領だっけ。炎の男だ。 「おっさん、あんたも飲むかい?」樽に話しかける。口調が傭兵のそれに戻っている。 「どうやって飲めってんだよ!」転がる男、ぐるぐる巻きの男が凄む。 「ああ、その格好じゃあ、辛いよねえ」 「縄を切ってくれたら礼を言うぜ」ぐるぐる巻きなのに生意気だ。上下関係というものを 骨髄に刻んでやらないといけないようね。 「あんたさっき、姉御に忠誠を誓ってなかったっけ?」 「あ、ああ。あれは駄目だ、逆らえねえ死にたくねえ」 「でもさ、あれであの姉御、すげえ手加減してたんだ。王者の技、喰らわなかったろ?」 「王者の技?」 「ああ、肉体言語さ。極められた瞬間に関節が『ありえない方向』に曲がるんだぜ、絶対 に逃れられねえ」 「……なん……だと……」 「でな、その姉御ほどあたしは優しくねえんだ。使えない奴、逆らう奴、反抗的な奴、全 部ブチ殺してきた(嘘)。死体は逆らわねえからな。お前が寸刻でも姉御の背後を狙って みろ。その瞬間が三十二分割に刻まれる経験を味わう人類最初の一人になるぜ(嘘)」 「……くっ、畜生。認めてやる! 認めてやるよお前たちを! だから! 俺を置いて、 仕えると決めた俺を置いて、先に行くんじゃねえ!」 「純情だな。ああ、純情、純真な男だ。おっさん、気に入ったぜ。今日から、おっさんは わたしの部下だ。……そんでおっさん、あんたの名前、何ていうんだい?」 「メンヌヴィル、“白炎”のメンヌヴィルだ。俺の炎は全てを焼き尽くし、そして匂いを 嗅ぐ」 「変態ね」 「ああ変態だな」 『変態以下のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!』 ついうっかり己の性癖を開陳してしまった白炎が、慌てて取り繕う。 「任務と仕事、それと『身を守る』以外に炎を振るったことはねえよ」 その残忍極まる雰囲気からして、身を守るの範疇が相当に逸脱しているだろう事は、難 なく予想できる。やはりこの男、変態だ。諦めろ、そして受け容れろ。 「まあ、変態でもいいか。あの姉御が見込んで雇ったんだ、役に立つのだけは間違いなさ そうだし」 「おう、使える男だぜ俺は」 「よし、今日からおっさんは“肉焼き名人”のメンヌヴィルだ。こんがり肉Gをたくさん 焼いて貰うぞ!」 「な、何だよそりゃ。俺を勝手に料理人にするな!」 「まあまあ。街に帰ったら高級肉焼きセットを買ってやるから、な?」 「く、くそっ。まあいい、お望みならば焼いてやるよ。俺も肉は食う」 「ようし商談成立だ」そう言うと、傍らに刺さったデルフを抜き、肉焼き名人の戒めを解 除する。 「飲むぞ!」 「おお、そうだな。飲ませて貰うぜ!」 酒宴の続く中、二隻の貨物船と一隻の軍艦がアルビオンを目指す。追い詰められ滅びの 淵にある国へ。明日は戦争だ!
https://w.atwiki.jp/selfishing/pages/35.html
ふりふりパレオ付きビキニ ホワイト キンギョ(赤)×4カクレクマノミ×5ウツボ×6
https://w.atwiki.jp/loaceli/pages/385.html
主な人 ルナール ヒューズ アネックス KURZ なんなん かき食う客 お茶 rocker Fifil 香織 魚子 Garu フェンベルク エースオンライン kyon ガミ こっぱミジンコ ヌーブ 紫電零 星野志穂 asuma AxisNEO プリウスオンライン リッケルト あざりん アニエス アリサ ヴェルズ キリコ クシュカ くままん ディア てらやん バルス フェミーナ ヘヴン ボイス リムリア 干支悪 地酒 春茶っこ Fairytune Nive エイカオンライン Eguko シェマリー 蒼井優 統耶 ジェダイ ブイロク OneiLL 焔小雪 ファレット maiza エクリア ねぎみそ ユナイト JILLBALENTINE 蜂蜜れんぬー Frisky Ceros ヨシキ Vanille スローライフ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5613.html
前ページ次ページランス外伝~ゼロと鬼畜な使い魔~ そして、戦勝パレードが始まる。 その列に群がる人の数の凄い事、そしてその歓声の大きさ。 パレードという事で、街の人々や兵の人等が一致団結し。 姫様とその英雄が称えられる。 ランスはがははと腰に手をやり笑っている。 謙信は表情を変えず、ただ前に進んでいた。 だが、それがとても凛々しかった。 ロングビルは、元盗人で顔は知られてはいないとしても、もし知っている人がいたら大変な為。 ローブを被っていた、後はアニエスやらむっさいおっさんが続いたりしている。 平民達は「あいつぁ誰だ。」「やっぱメイジか。」「でも帯剣してるぞ?」等噂話をしている。 そりゃ、いきなり見もしない奴が手柄を上げたのだから有力なメイジと思いたくもなる。 だが、正体は豪傑以上の腕を誇る剣士と盗人である。 そんな、観客達の中にルイズ達がいた。 「…なによ、使い魔の癖に生意気よ!」 「あら、ミス・ヴァリエール、嫉妬?そういえばここはトリステインだったわね。」 キュルケ達も、直ぐに取り返したと言う情報を聞いて、また戻ってきた。 家にいても暇だし、学院がまだ楽しいのだ。 「キュルケ!いつのまに!」 「にしても、ランスかっこいいわ~、金も使わずに自分の腕だけで登り詰めたのよ?すこしは誉めなさい。」 「はっ、どうせ平民は平民よ!」 「あらら、聞いてなかったのね、城の前ボードを見てきたら?」 「…。」 ルイズが走って城の前まで行く、ボードには人だかりができていた。 ちなみにこのボードは城で何があったかをいち早く知らせる為の…。 つまり、新聞を貼り付けたような物である。 そこに、今回の戦果と、活躍に関してが書いてあった。 ランス・ド・シュヴァリエ 元女王の命の危機を助ける。撤退中の隊のしんがりをケンシンと勤める城への2番槍 ケンシンとだけで城の制圧を了す。 これによって従軍を基としていた為子爵の爵位を襲名する。 裏切り者であるワルド元子爵を倒した為、これをランスが領土を統括す。 「…は。…は?」 とにかくルイズはこれを見ると走った。そう、事情を聞くために。 物凄いスピードで、キュルケの元に着く。 「どうだった?」 「な…なによあれーーー!」 「すごいでしょ、子爵ですって。」 確かに、公爵よりも3つ劣る子爵であるが、十分凄い。 何が凄いって、平民が一気にそこまで出世した所である、しかも領地まで貰って。 「な…何よ、生意気な…。」 「まぁ、そりゃあんたの所になんか何年もいたら精神を病むわ。」 「どういう意味よ。」 「さぁね。」 「…。もういい、学院に戻るわ、いくわよシィル!!」 「はい。」 「がはは、これはいい気分だ。」 「にしても…まっさか領地までくれるなんてねぇ。」 領地までくれるという事はそこまで信頼してくれているという事と…。 国に確実に従わなければならない…という事である。 まぁ、金があるならその限りではないが。 「にしても、本当に貴族にもどれるなんてね~。」 「その貴族とやらになるのはどれ位大変なのだ?」 「んー、平民でトリステインの国で、前国王の時代なら無理0%ね。」 「でも俺様貴族は貴族になった。」 「そりゃ、あんだけ働いたし、前国王じゃないし、可能性は10%にあがってたんじゃない?」 アンリエッタは、これからのトリステインを作るには、強い人材と優秀な人材が必要と考え。 それを作るにはまず競争率が上がるように活躍次第で貴族になれるようにした。 伝統を誇るトリステインに新たな風が入り込む…そういう感じである。 「ほぉ、観衆の中に可愛い子が結構いるな…後で誘っとくか。」 「ちょ、ちょっとー私がいるじゃないの~。」 「がはは、俺様は全ての美女を抱かなければならんのだ、フーケちゃんも抱いてやるから安心しろ。」 「…私がいっても無駄か。」 フーケは、もうランスの性格を理解している為、諦めた。 戦勝パレードとは言え、ただ街の全体を廻るだけなので、あっという間に終わっていた。 「ありゃ、これだけか。」 「そうみたいね。」 「…緊張した。」 パレードが終わってから、やっと謙信が口を開いた。 「何だ、緊張してたのか。」 「皆様お疲れ様です、貴方がたには感謝しきれません。」 「では、各自一週間後に備え気を養いなさい。」 「一週間後に何かあるのか?」 「アルビオンに攻め込みます。」 艦隊も、人材も大量に敵から手に入り、その敵から奪った艦隊だけでアルビオンは倒せると予測。 予備の為に今も造船所にて大量の艦を作っている。 「それはまた急だな。」 「無傷で手に入れたレキシントン…それに屈強なアルビオンの竜騎士を手に入れたのです、艦対戦において負ける事はないでしょう。」 「今回の戦は地にはおりたたぬ、ありったけの風石を使い、一気に城を落とす…それだけで済む。」 「その風石はどうするんだい?」 「自軍の全滅した艦隊から風石を取り出す。それと、何故か知らんが、ガリアが風石を大量に輸出してきたのでな。」 「まぁ、今日は解散しよう、仔細は後で通達する。」 「…分かった、じゃあ俺は学院に戻るとするか…。」 「学院?屋敷ではなくて?」 「取り忘れた物があってな。」 「そうですか、貴方がたの領地はここです…もう知らせてありますが、一応この状をもって置いてください。 本当は…ワルドは伯爵の位に上げるつもりだったのですが…あの結果になり…ランス殿には家系も無く… という事でワルドの爵位を受け継ぐ形になりました、次の戦争に出れば何とか伯爵にします。ご了承くださいね」 「うむ、ややこしいけど次の戦争には出てもらうって事だな。」 アンリエッタに何かの状をもらう…多分領地の権利とかそういう関係だと思われる。 こうして3時間後、学院に到着、そしてランスが向かう所は…。 「おーい、シエスタちゃーん、いないのかー。」 「…。」 そう、厨房である、が何故かこちらへの視線が何か冷ややかである 「おう、マルトー、シエスタちゃんを知らないか?」 「ふん、誰が貴族野郎になんか教えるかぃ!」 「…??」 「シエスタはなぁ、お前等貴族のなモット伯って糞野郎にとられちまったよ!」 「何時だ。」 「さあな、そんな事まで教える義理はねーさ!」 「…マルトー。」 「んだよ!」 「私達が貴族だから、態度が豹変したのか…。」 「あぁ、元から貴族はでぇ嫌いだからな!!」 「私が貴族じゃなく平民に戻ったら…また美味しい飯を食べさせてくれるのか?」 「ちょ、ちょおま。待て!分かったよ…全く馬鹿な奴だぜ、折角貴族になれたのにわざわざ捨てる奴があるかい!」 「…なら。」 「あぁ、あぁ来たら食わせてやるよ、鱈腹な!」 「…良かった。」 「で、シエスタちゃんは?」 「はぁ…お前等にゃ負けるぜ…。さっき言ったがモット伯に今朝取られたよ…まったく。」 「モット伯…どこだ?」 「ここから結構近い、お前さんなら出来るだろう、シエスタによろしくいっといてくれ。」 「うむ、分かった。」 モット伯爵とは、メイドを自分の夜の相手も兼用する為に買ってる度畜生の事であると、マルトーに教えられランスが憤怒。 急いで馬にて謙信の後ろに乗り、モット伯へ急行する。 「平民の為にここまでねぇ…。」 「俺様以外に女を取ろうとしてる不届き者は懲らしめてやらんとな!」 「にしても…モット伯ねぇ…、確か私一回そこで盗みを働いたわ。」 「何を盗んだ?」 「さぁ、おぼえてないね。」 「おっ、あの屋敷か。」 モット伯爵の屋敷を見つけるとすぐさま馬から降り、屋敷に突撃する。 「女の事になると本当に凄い身体能力になるわね。」 屋敷の前の衛兵を吹っ飛ばしてその屋敷に入り、突然の出来事に驚いているメイドに モット伯爵の居場所は何処だと聞きだし、モット伯爵がいるという部屋に乗り込む。 モット伯が驚き、剣を持ってる所を見て賊だと思い込み、杖を出す。 が、詠唱が間に合わず、ランスに切られた。 「ぎゃー。」 深手だが、致命傷にはならず、自分で自分の傷を癒す。 「い…命だけは。」 「知らん、シエスタちゃんは何処だ。」 「あ…あの村娘か…、あの子なら…部屋で待機させておる…。」 「そうか、じゃ、命が欲しいなら金寄越せ。」 「いっいくらだ。」 「そうだな…1万だな。」 「そ…そんな大金!!」 「あ?」 ランスが横たわってるモットの上に指先だけで支えているカオスをぷらぷらさせる。 「わ…わかった、払うから命だけは!」 「いいから出せ。」 「ぐっ…。」 この一万エキューモット伯爵が持っている全財産の内の2分の1で年金の10倍近くという破格の大金である。 本当はモット伯爵はもっとお金を持っているはずなのだが、書物やらメイドを買い、とある酒場に通っているので、金がどんどん減っていた。 「くっ…今月はもう何も買えないよ、ちくしょう。」 そう言ってランスに無理やり立たされ、金庫の場所を案内する。 謙信はこの行動を見、上を見て毘沙門天にお願い事をしていた。 「いつっつ…、ここだ。」 「開けろ。」 「けが人に――。」 そう言ったモット伯爵を後ろから蹴飛ばす。 「分かった!開けるから!もう乱暴しないでくれ!」 しぶしぶ金庫を開ける、中から半分取り出し、ランスに差し出す。 ランスは、ここで全部取るか。と思うのだが、量のせいで流石に無理がある。 そしてそれを取ると、さっさと屋敷へ出ようとする。 しかし、このままではつまらないと、フーケが良からぬ事を企む。 「儲かりましたね【子爵】。」 「何っ!!?」 「ん?」 「貴様、貴族か!?こんなまねして済むと思うなよ!!」 「姫は悲しむだろうなー、国の土である国民の女性にこーんな酷い事してな、これがばれたら、信用失くすんだろうなー。」 「ぐっ…、貴様どうせ姫と謁見できる立場でもあるまい!」 「これは何かな。」 ランスがモット伯爵に見せた物…それは謁見証であった。 「貴様…いや、貴方は何処でそれを!?」 「決まってるだろ、姫から貰った。」 それだけ言うと、シエスタの元へ向かう。 「シエスタちゃーん。」 「……あ、ランスさん!!」 「久しぶりだな。」 「助けに…来てくれたんですか?」 「おう、という事でお礼に犯らせろ。」 「ええっ!ま、まだその…こ、心の準備が…。」 シエスタがモジモジしながら頬を染める。 「む、分かったじゃあどうやったら犯らせてくれるのだ。」 「…結婚。」 「むー、結婚はなー、それ以外。」 「そ、それ以外ですか!?」 「うむ、それ以外。」 「…考えておきます。」 「えー。」 なるべく和姦をモットーにしているランスはしぶしぶ屋敷から出て行く。 「ところでフーケちゃん、何であんな事を?」 「暇だったからよ。」 「そうか、じゃあ帰るか。」 「学院?新しい我が家?」 「まず学院でシィルを返してもらう。」 「じゃ、行きましょうか。」 そこにシィルがいるという確証は無かったが、馬に乗り、学院に戻る。 「おっ、ルイズ発見。」 「あんたディテクトみたいなもん内蔵されてるんじゃないの?」 ルイズもこちらの方を向き、ランスが来た事に気づく。 そして、こちらに全力で走ってきて、ランスに思いっきりドロップキックをかます。 その拍子でランスが倒れて、一万エキューの入った袋を地面に落とす。更に、倒れたランスの胸倉を掴み、睨む。 「ぃつつ、何しやが――。」 「ふざけんじゃないわよ!何勝手に貴族になってるのよ、ししししかも領地まで貰って!何、それで私を見返してやろうとでも考えてたの?馬鹿じゃないの!?」 そこに、ランス達がモット伯を成敗している時に帰ってきていたキュルケとタバサが通りかかる。 他の生徒もこちらの様子を伺っていた「貴族?あいつが?」「まさか」「でも領地がなんたらって…。」と嫉妬深いトリステインの貴族は 戦勝パレードにて英雄を称える気持ちなんか無いのだ、姫様だけ一目見て帰る…そんな生徒が多かった。 「あらあら、嫉妬はみっともないわよ?」 「嫉妬じゃなくて!使い魔の!勝手な!行動が!」 「私の使い魔だって、私の命令には忠実だけど、命令していなかったら自由に遊んでいるわよ?ねぇタバサ。」 タバサは本を読みながら頷く、聞いてるようには見えない。 「限度って物があるでしょ!!平民が!貴族になるなんて!」 「いいじゃないの、ゲルマニアじゃぁお金があれば――。」 「蛮族の国なんてどうでもいいわ!」 「ふふ、いつまでも伝統をしょってるから国力が弱くなるのよ、その点姫は利口ね。」 ルイズがここで言葉に詰まる、姫様を悪く言ってないし言ってる事が正しい。 悔しそうな顔をしながら、ランスから手を離す。 場が落ち着いたように見えた生徒のうちの1人ギーシュとマリコルヌがルイズに近寄る。 「ルイズ、ランスが貴族になったってのは?」 「紛れも無い事実、城の前に行けば分かるわ。」 「な…しかも、領土を?」 「裏切り者の元ワルド子爵の領土と財産を全部引き継いだわ。」 ワルドは国も無く親ももう先立たれているので、このような処置になった。 「「「「なっなんだってーー!!!」」」」 生徒の殆どが驚く、それもそうだろう。 ワルド子爵の領土は公爵家までは行かないが、それでも大きい上魔法衛士隊の隊長。 しかもあの性格なので大金を使うような真似はしないはず。 つまりお金は大量にあるのだ。 「じゃ…じゃあ落としたときにじゃらじゃらいっていたこの大きな袋の中って…。」 「うむ、モットから頂戴した1万エキューだ。」 「い…1万エキュー…?」 モンモランシーの喉が鳴る。 1万エキューなんて大金があれば、どんな秘薬でも作る事が出来る。 そして、ギーシュの喉が鳴る。 1万エキューなんて大金があれば、大量の女の子に持てるだろう。 更に、マリコルヌの喉が鳴る。 理由は上と同じである。 そして、謙信の腹がなる。 「おぉ、そういえばまだ飯食べてなかったな、そうだ、ルイズ、シィルは?」 「部屋で待機させてるわ、勝手にもっていきなさいよ、でも貴方達は私の使い魔ってことは忘れないで!」 「あいあい。」 ランスがルイズにそう言うと急いでルイズの部屋に駆け込む。 「シィルー!」 「あ、ランス様どうなされたんですか?」 「行くぞ!」 「え、あっ、はい!」 ランスがそれだけ言うとシィルは着いて来る。 「何処に行くんですか?」 「ここでの我が家だ。」 「??」 訳が分からなかったが、まぁとりあえず着いていき馬に乗る。 謙信が地図を見ながら馬を走らせ、目的地まで急ぐと。そこにはモット伯爵の屋敷に劣らない位の屋敷があった。 「ここが俺様達の家だ。」 「大きいですねー。」 「うむ…。」 「これは4人で住むにはちょっと余るかしらね。」 「4人と俺を入れて4人と1個だ。」 そんな事を話していると、屋敷の周りに立ててある家々から人がでてくる。 「新しい領主様で?」 「うむ、そうだ。」 「おー!おめぇら!失礼の無いようにしろよ!!」 「あいさー。」 「噂に聞いたんですが元平民で?」 「うむ、俺のようになりたかったら、1週間後にある戦争で活躍するんだな、さぁ屋敷までいかせてくれ。」 「1週間後にあるんですか!訓練しないと、てぇへんだ!さ、馬はこちらへ。」 領民に案内され屋敷の中へ。 「お待ちしておりました、新領主様。」 「うむ。」 「お食事は?」 「してない。」 「左様ですか、急いで作らせますので食堂の方へ。」 「頼む。」 「変わりましたね、ランス様。」 「いや…後であいつは解雇するけどな。」 「でも、あの人結構有能そうよ?解雇はやめたら?」 「む……、じゃあ解雇はやめるか、俺様達も、この屋敷ほったらかしにしたら見てくれるだろうし。」 そして食堂に掛けてある椅子に座ると、既に飯が並んでいた。 「はやっ!!」 「えぇ、事前に用意させて置いたので。」 「いや、そっちじゃなくて…物理的な…。」 「プロですので。」 「そーかー、プロなら…って違うでしょ!」 「速く食べないと冷めますよ。」 完全に執事のペースに乗せられていた。 着々と、出された飯を食べ、謙信はおかわりをしまくる。 そして完食。 「もう3時半か…どうする?ランス。」 「暇な時間はなるべく潰したい、という事で街にいって暇つぶしだ、いくぞシィル。」 「私は…領民と仲良くなってくる。」 元国主だから分かるが、民に優しくしないと軍も何もかもが巧く機能しない。 「じゃあ…私はー…ランス300エキュー頂戴。」 「うむ、いいぞ。」 1万エキューの入った袋から300枚の金貨をシィルに取り出させる。 そして300枚数えると、フーケに渡す。 「袋あるかしら。」 「はっ、ここに。」 「気が利くわね。」 「でなければ執事等務まりません。」 「確かにね、じゃあ私ちょっと行く所あるから多分明後日か明日帰ってくるわ。」 「…いってらっしゃい。」 謙信がそういうとフーケが食堂から出る。 「金庫は?。」 「はい、こちらに…。」 執事に案内され、さほど遠くない金庫が置いてある厳重な部屋に着く。 執事が一つ一つ鍵で開ける、部屋を開けると、そこには大量の金銀銅貨が積まれていた。 「おー、凄いな。いくらある?」 「数え切れないほど…どれくらい入れましょうか。」 「1000枚あれば色々できるかな。」 「1000枚あれば8年は暮らしていけますよ。」 「む、なら500でいいか。」 「分かりました。」 そういって袋にあった金貨を入れ、丁度500枚が残った状態で袋を閉める、さながら職人芸である。 「じゃ、留守頼む。いくぞシィル。」 「はい、ランス様!」 シィルは久しぶりにランスと二人きりで出かけるので、うきうきしている。 シィルが馬の前に乗る。 そして、街に着くと適当にぷらぷら歩く。 街道を堂々と歩く団体が見えた、先頭にはアニエスがいた。 「おっ、アニエスちゃん。」 「…あぁ、ランス様か。」 「様はつけなくていいぞ。」 「で、何かようでしょうか。」 「暇だっただけだ。」 「左様で…そうだ、紹介しておきます、近衛隊の銃士隊です。」 全員が最新鋭のマスケット銃を引っさげて、剣を腰に見につけている。 が、ランスにはそこはどうでもよかった。 「可愛い子が多いな。」 「決して趣味ではありませんので。」 「…聞いてないのだが。」 「……そうだ、部下に稽古を付けていただけませんでしょうか。」 「何の?」 「いえ、なんのと言われても…剣のです。」 「あぁ、別にいいぞ。」 「感謝します、ではこちらへ。…いくぞ!」 ランスがアニエスに付いて行く、シィルは折角のデートを…と少し落ち込んでいた。 アニエスが連れてきた場所は城の外にある軍の訓練所であった。 少し離れた所では空海軍が訓練をおこなっている。 アニエスがランスに訓練用の剣を渡す。左手が光るのをアニエスが不思議がる。 「?…では、ここにお願いします。 まず、貴様からだ!」 「はい!!」 1人の部隊員が勢いよく返事をして、ランスの前に対峙する。 「始め!」 その始まりの言葉で両者の剣と剣がぶつかる…が、ランスの腕力に腕が耐えられなくなって頭に剣を受ける。 「下がれ!貴様はあそこで腕立て100回だ!次!!」 「はい!」 「次も?」 「はい、お願いします。」 「…いつお――。」 「はじめ!」 相手がでやぁっ!!と気萎えしないように叫びながら剣を振りかぶる、その振りかぶっている剣に思いっきり叩き込む。 「貴様!死にたいのか!貴様もあそこで腕立て!!次!!」 次々と女兵士が掛かってくるが、ランスに敵う訳も無く、次々と倒されていく。 既に夕時になっていた。 「では、次は私が相手を務めます。」 「うむ、掛かって来い。」 「始め!」 試合の合図をアニエスの代わりに部下が言う。 両者まず睨み合い、動きを見ているのである。 これでは始まらないと思い、ランスがまず仕掛ける。 それを軽く避け、反撃する。が、ランスはそれを剣で受け止める。 ランスは思いっきり剣で薙ぎ、アニエスを引き離す。 ここでまたランスが距離を取る、そこで取った行動は…。 「とぉっ!」 「くぁっ!!」 思いっきり練習用の剣を投げる、アニエスは驚きその剣を薙ぎ払う。 その薙ぎ払うという動作によって一瞬だけランスを見逃す。 周りを見渡してもいない、上かと思って急ぎ見たが、間に合わず、腕に一撃を食らい剣を手放す。 そう、その飛んだ剣をランスは空中で掴み、そのまま振りかぶり、アニエスに突撃していたのである。 「勝負あり!!」 「お見事です…。今のはいいお手本だ、戦場では何が起こるかわからない、全ての戦場、任務において臨機応変に対応するように!!」 「はっ!」 「手間を取らせてすいません、もう帰ってよろしいですよ。」 「そうか。」 空を見ると既に日は沈んでいた。 シィルは憂鬱な気分になっていた。 「どうしたシィル、いくぞ。」 「…はい。」 ふらふらと立つ、その様子に気づいたのか。 ランスが手を貸す。 「いくぞ。」 「はい。」 場は飛びルイズの寮へ。 「何よ…何よ何よ!使い魔の癖に使い魔の癖に!これじゃ私の出番がゼロのルイズじゃない!!」 前ページ次ページランス外伝~ゼロと鬼畜な使い魔~